忍者ブログ
上下サイトです。閉鎖しました。
Posted by - 2024.05.07,Tue
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Posted by ふじみき - 2008.02.20,Wed



「納得いかねえ!」

 結局誰かが(キッドだったと思う)怒鳴って,椅子を蹴り付けたまま会議はお開きになった。会議といっても大したことじゃない。閣僚人事というやつだ。

 テッペリンが陥落してから早や1年以上が経過していた。
 あれよあれよという間に英雄に祭り上げられた俺たちは,今度は地球にある無数の村や町を束ねる役目を負わされた。
 なんだか良く解らないうちに,新政府,というものが立ち上げられることが決まり,これからはそこに属する人間が,「民衆」にとって良い国を作るために働かなければならないんだそうだ。

「何でオレが文部局?とかいうのにつかなきゃならねえんだよ!」



 ドアを出ても聞こえよがしにキッドは叫ぶ。
 広い廊下,向こうを歩いてきた新入りらしき姉ちゃんがびくりと肩をすくめて,早足ですれ違った。
 まあ叫びたくもなるだろう。自慢じゃないが学とは無縁の人生を送ってきたのが俺ら大グレン団だ。キッドだけじゃない,そのうちの誰が,そんなポストに似合うだろう。子供とその教育について考え整備する部署の長官なんて。

「俺ぁ運輸産業局だとよ。地味なとこに飛ばされたもんだぜ」

 ゾーシィのシケモクは持ち主と一緒に天を仰ぐ。
 その後ろをのしのしと行くジョーガンとバリンボーは,そろって人民局とやらの長官になった。奴らは怒るというよりほとんど呆然としているといって良い。さっきロシウから受けた役職の説明は,半分も頭に入っていなそうだったからな。この双子が自分たちのおかれた立場に気が付くのは,もう少し後になるだろう。気が付いた後の大暴れが心配だが。
 すかし屋のアイラックは医療衛生局長となる。こいつはそれなりに自分の立場を享受しているらしい。ぼそりと「白衣の天使,というのも悪くないな・・・」とつぶやくから,「おーおーてめえはお似合いの役職で良かったな!」とキッドが一発拳をお見舞いしていた。

「んで?キタンが法務局長だと?」

 立ち止まった奴らは一斉に俺の方を向く。

「・・・んだよ,何か文句あるか?」

 そろって妙な顔つきをしているから,こっちもガンを飛ばして対抗しようとした途端,全員大口開けてどっと笑いやがった。

「に・あ・わ・ねーー!!」
「法律って顔かお前が!」
「うるせえ!俺だってそう思ってんだよ!」

 本当を言えば,俺もキッドと一緒にどこかに蹴りを入れたい気分だった。
 法務?法務ってなんだよ。俺はつい最近までそんな言葉すら知らなかったっつうのによ。
 がりがりと頭をかき回す。ロシウの話じゃ,今大まかに決まっている法律を,さらに細分化して,場合場合にそった細かい法をこれから作っていく事になるらしい。で,それを指揮する役が俺,だ。
 それに早急に裁判とやら言う制度を確立したいんだそうだ。悪ぃヤツが本当に悪いことをしたのか,あるいは喧嘩両成敗なのか,被害者ぶってるやつが嘘をついてないか,そんなことを政府がわざわざ場所を作って話し合うんだと。
 なんでそれが俺,なんだ。

「・・・へっ,だーれも防衛局には入れねえんだ」

 ゾーシィの吐き捨てた言葉が笑い声の間を縫って妙に響いた。一瞬の喧噪が沈黙に代わる。
 晴れ渡る議事堂上空,全面ガラス張りの渡り廊下は奇妙に明るい。空騒ぎで打ち消そうとしていた空気が,重く淀む。

「ロシウの野郎・・・」

 この中では一番血の気の多いキッドが,忌々しげに固いガラス壁を蹴る。
 そう,多分俺たちが憤っているのは,本当はそのこと一つに尽きる。
 ガンメンの完全廃棄,グレンラガンの量産機開発,それに伴うパイロットの育成。それら全てを取り仕切る,防衛局の存在。
 俺たちは所詮単なるガンメン乗りだ。正直それ以外の事は得手でない馬鹿の集まりだ。螺旋王なんていうでかい敵が居るから,戦うためにガンメン乗りになって,戦うために集まった。それ以外の事なんぞついぞ考えた事がなかったのだ。
 そんな俺たちからガンメンを取り上げてどうしろというんだ。その上,新型機に乗ることも,開発に関わることすら出来ない。
 ロシウは,俺たちが防衛局に入ることを頑として拒否したのだ。

「シモンがいねえからって調子乗ってんじゃねぇのかぁ?あの小僧」

 憎々しげにゾーシィは,受け口で煙草を噛みつぶしている。
 シモンは今月は地方回りをしている。新都から遠い村々の視察,地上移住の呼びかけが目的だ。遠隔地へ画像を送る機械はあったが,やはり本人が行った方がありがたみが違う,というロシウの考えである。
 英雄の顔見世公演だ,とダヤッカは笑って言っていたが,本人は余り乗り気な素振りではなかった。
 それでも,ロシウが行ってこいって言うから,と苦笑いしながら出発したのを俺は見送っている。
 そのタイミングで,こんな人事発表か。

「野郎が言った事,聞いたか?あのすました顔!」

 あいつは防衛局へ入りたいと詰め寄った俺たちを前に,ふてぶてしいまで冷静に言ってのけたのだ。

『今後開発される政府専用機は,ガンメンとは違うんです。ガンメン操縦の癖が抜けないあなた方の力は,テストパイロットとしても,開発人員としても必要ではない。
 ・・・開発機は,グレンラガンをモデルに設計されます。旧大グレン団の中で,グレンラガンへの搭乗経験があるのは,僕とキタンさんだけしかいない。メインパイロットの総司令は当然ですが。
 加えて,防衛局は螺旋王の予言に備えて早急に軌道に乗らなければならない最重要部署です。迅速かつ円滑な局整備が求められている。なるべく,政府の中枢と密に連絡をとれるようにしなくてはならない。これらを総合して考えると,補佐官である僕自身が防衛局長を兼任するのが最も効率が良いんです』

 眉一つ動かさず長台詞を吐かれ,ひるんだ俺たちに畳みかけるようにロシウは告げた。

『英雄としてこれからも暮らしていくつもりならば,あなた方の義務もどうか忘れずに果たして下さい』

 あの時広い会議室に沈黙が下りたのは,俺たちもそれがどういう意味かうっすらわかったからだ。
 統治の機構が働き始め,俺たちがドンパチをやらなくなって久しくなった頃から,少しずつ大グレン団は解体し始めていた。政治は肌に合わないと抜けていった者。これからは平和な人生を謳歌したいと市井に下った者。故郷に骨を埋めたいという者も居たし,商売っ気を出して,いち早く政府認可の店を作った物も居た。残った者たちもそれなりに居場所ややりがいを見つけ,今や世界の中心地であるこの議事堂の中を外を走り回っている。

 俺たちは------俺たちは,どうして未だここに残っているか。

 俺の頭の隅にいつも引っかかっているもやもやとした疑問が,また浮上してくる。
 居心地がいいから,とまとめてしまうのは容易い。長い付き合い,腐れ縁などと言って気の良いこいつらといつまでも馬鹿をやりたい,もちろんそれも本音ではある。
 だがただそれだけの事なら,この場所を離れたって出来る。同じシティに住んでいればいつでも会えるだろうし,移動の足も増えた今なら,お互い故郷に帰ったとしても集まるのはそう難しいことではない。連絡手段も豊富にある。
 ・・・俺たちは,多分この場所で古参過ぎるのだろう。
 今ここにいる奴ら,自らの手でガンメンを奪って,ダイガンザン乗っ取りのあの日から大グレン団となった俺たちは,きっとあまりに自負が,誇りが,強すぎる。自ら道を切り開き,生死をかけた闘いをくぐり抜けた,という誇り。最初の大グレン団としての誇り。
 螺旋王に勝ち名乗りを上げ,人々が集い,町が出来ていく中で,俺たちは随分持ち上げられた。英雄として,解放者として,先駆者として。グレンラガンに次いで華々しく戦ったガンメン乗りたちのことは,巷間に語り伝えられ,尾ひれがついて,どこに行っても歓迎と賞賛を浴びた。
 そうして痺れるような勝利の喜びと,肥大したプライドを抱えた俺たちを待っていたのは,果てしないぬるま湯だ。
 戦いのない世界で,俺たちはうろうろとただ漂っている。プライドが邪魔をして,この居場所を出ることができないのだ。自分たちに戦う以外の能がそれほど無いことを知っているのに。ここを出てただの人になることが恐ろしいのだ。手に入れてしまった栄光を捨てるのが惜しいのだ。
 ロシウは,多分そのことを言っている。俺たちが今の居場所に居たいのなら,それなりの地位について,しかるべき仕事をしろと。英雄なら英雄らしく,民衆を導けと。

「・・・ダヤッカにまず談判しにいってだな」
「いや,あいつは,どっちかっつーとロシウの肩持ってるから駄目だろ」
「とはいえ,シモンが帰ってくるのはまだまだ先だ。話をするなら早くしないと・・・」

 俺がぼんやりと考えている間に,他の奴らはどうにか今回の人事をひっくり返そうと頭を付き合わせて画策を始めている。頭脳戦なんかさっぱり得意でないジョーガンとバリンボーまで,もっともらしくうんうんと頷きながら頭をひねっているから,なんだか俺はおかしいようなもの悲しいような,変な気分になった。
 なあ,お前ら,いつまでも俺たち,子供みたいに意地張ってらんねえんだぞ?長いものに巻かれて,流れるところに流れてかなきゃなんねえんだよ。多分,俺たちが,染みついちまった根性を捨てない限りは。
 つきたくもないため息が口から勝手に出た。
 マッケンみてえに所帯をもってしまえば良かったんだろうか。守る家庭でもできれば,こんなプライド捨てられるか?それとも,ヨーコのようにさっさと出て行けば良かったのか。鮮やかにたなびいて去った,緋色の髪が眼の裏に蘇る。

「おいキタン!聞いてんのかよ!」

 ゾーシィが,最近持ち歩くようになった酒の小瓶の蓋を飛ばして俺を呼ぶ。
 赤い髪と金色の瞳の幻は消えて,見慣れたむさい男どもがにやつきながらこっちを見ている。俺は照れ隠し,返事代わりに右手を挙げて奴らの 輪に加わった。
 不毛だとわかっていても,お前らが集まって悪巧みする顔は妙に生き生きしている。だからやっぱり,俺はお前らの仲間でいたいと思ってしまう。ぬるま湯でも何でも。
 もう少し,こいつらに付き合って行こう,と俺はひとりごちた。どっちが付き合ってる方なのかわかんねえが。一朝一夕の仲間じゃねえ俺たちだ。少なくともこいつらと居るなら,なんだかわからん政府とやらも,ちったあ楽しい職場になるんじゃねえか。
 楽観は根拠のないものだが,単純な俺にはそれで十分なんだ。

 いつも通り陽気な一団になった俺たちは,やかましくエレベーターへと乗り込む。
 近くの職員が呆れた顔をしていたが,空威張りに見せた胸の階級星に,慌てて顔を引き締めるのが最後にちらと見えた。
PR
Comments
Post a Comment
Name :
Title :
E-mail :
URL :
Comments :
Pass :   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
TrackBack URL
TrackBacks
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[10/09 深海]
[05/22 サワ]
[03/06 ナキ]
[03/06 ナキ]
[03/19 id]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
ふじみき
性別:
女性
趣味:
食べ物。文字書き。読書。
自己紹介:

期間限定グレンラガンのカミシモ(シモン総受が信条)テキスト垂れ流しブログです。
鉄は熱い内に打て!
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
忍者ブログ [PR]