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Posted by ふじみき - 2007.07.13,Fri



2.

 

 聖典のページをぱたりと閉じた。

 司祭が持っていた時間と、自分が持ち歩いていた時間とが積み重なって、この小さな書物はますます古びて埃の匂いがする。あまり何度も開くと、とじ目が千切れてしまいそうだ。

あの日から。あの不吉な予言を聞いた日から、ロシウは毎晩この書の解読を進めている。リーロンから一通り文字を教わってわかったのだが、この聖典の文字は、今伝わっている文字よりもさらに古いものらしい。いったいいつから伝わっている物なのか、それすらわからないので、めくら滅法の手探りに近い。だが幸い、このダイグレンを目指してやってくる者の中にはまれに、古い文字を知る人、あるいは伝承を伝える古老を紹介してくれる人が居る。今日も、少し手がかりになるような文字を知っている老人が居て、そこを訪ねてきたのだったが。

ふうっ、とため息をつく。せっかく役に立ちそうな情報を仕入れたのに。うまく頭が働かない。見慣れた文字すら頭に入ってこない。

昼間、ニアの言ったことがひっかかっていた。

 


あの後、結局ニアも自分も仕事が控えていたことを思い出し、あれ以上深く話し合うことなく別れたのだ。ロシウの中に消化しきれないものを残したニアの言葉。

 

 シモンさんをシモンさんとして見る・・・・・・か。

 

 だいたい、最近いつシモンと話しただろうか。獣人の殆ど襲ってこない今、グレンラガンに搭乗する機会はない。そもそも、シモンさんはもう戦いの場には出されないかも知れない、とも思う。ここ最近でシモンと会ったのは、自分が関わる仕事の場で、指示を出されたとき、ぐらいか。

螺旋王を倒した直後には、話し合わなくてはならないことが多く、あの頃はみな良く顔を付き合わせて意見を出し合ったものだ。その頃のシモンは良く思い出せる。

でもいつしか、役割は整然と区別され、それぞれに長ができ、セクションができ、各々で動き出す。大きな組織のシステムというのはそういうものだ。それを俯瞰して、脳が大きな手足を動かすように、各セクションを動かすのがリーダーの役目。

 ダヤッカやリーロンやヨーコやキタンや。ダイグレンに乗って、あの戦いを経験した団員達の大体は、そんな長の位置にいる。ロシウも例外ではない。農業指導が主に彼の仕事だ。食料の少なかった、アダイ村の事を思い出す。定数50人の村。あんな事をもうしなくて良いように、もうそんな村が生まれることの無いように。自給自足で、最低限人が楽しく暮らせるような生活を定着させたい、という思いから、自ら買って出た仕事。作業は順調に進んでいたし、やりがいもある。ただ、それは確かにその中だけのこと。ロシウは他のセクションが上手くいっているのかどうか詳しいことは知らない。不穏な声は聞かない、というだけだ。

 かつて大グレン団だった僕たちは今、どこにむかって舵をとっているのだろう。それを知っているのは、連日連夜会議を行っている、年長団員たちと、最高責任者であるところのリーダー、シモン。

 寂しくないと言えば嘘である。打倒螺旋王、という戦いの頃、艦内に知らない顔は居なかった。この艦の目指す先を、皆が知っていた。皆が同じ気持ちで、一つの目的に向かっていた。


 どこかで、みんなが、つながっていた-------------------


 ふと不安がよぎる。今の大グレン団に、その繋がりはあるのだろうか。もちろん、出会えば軽口のひとつも叩くし、会話がないわけでもない。ただ、思うのだ。今の自分たちは、与えられた仕事を、必要のある仕事を、とにかくこなしていくことだけに忙殺されてはいないか。本当は別々の方を向いているかもしれないのに、気付かないでいるのではないか。目的を、見失ってはいないか。そして途方にくれては、リーダーを振り仰いでいるのでは・・・ないか。

 そうして、何十人、いや今や何百人の目が振り仰ぐ場所に居て、艦長は------シモンさんは、何を思っているのだろう。

 もしも自分なら、と思う。おこがましい気もしながら。果たしてその重圧に耐えうるだろうか。シモンなら、シモンだから。そう思ってきたけれども。それを自分たちは言い訳にしていないか?シモンならできる。シモンならやれる。そう、盲目的に信じて、考えることを放棄していないか?彼の偉業を慕ってやってきた人々は、まだそれでもいい。一緒に戦った、一緒に涙を流した、自分たちまでもがそうなってしまったら。

 いったい、誰がシモンを支えられる?誰だって支えが要らないはずはないのだ。唯一支えとも言えるのはニアの存在だったはずだが、それすら拒絶しているというニアの言葉。

  シモンさんと、一度話をしたい。

 丁寧に聖典をしまって、立ち上がる。もう随分小さくなった白い上着を羽織る。

 夜の会議はもうだいぶ前に終わっているはずだが、まだ寝てはいないかもしれない。昼間のニアの言葉通りであれば、シモンは夜もかなり遅くまで起きていることになる。

 

 とにかくシモンさんと会おう。何を話すかは、自分でもわからないけれど------昔のように話せることを確認できたなら、きっとこの胸騒ぎも、ごちゃごちゃした考えも、収まるはずだ。



-------------------------------------------------

書いてたらロシウの独白だけになってしまいました・・・・・・
この萌えもなんもないテクストを読んで頂きありがとうございます。
もう少し続きます。

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