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Posted by ふじみき - 2008.02.20,Wed

 その夜,カミナシティ一の苦労人,ロシウ・アダイ補佐官は,ほぼ一ヶ月ぶりに専用宿舎へ帰宅した。

 広いシャワールームでゆったりと体を洗うことができたのも久しぶりだ。激務続きで疲れた体をリフレッシュするにはもってこいである。
 長い髪をくるくるとタオルでまとめ,部屋着に着替え,居心地の良いソファに座り。今日ばかりは,少し休ませてもらおう,と誰にでもなく宣言する。何しろ,ほぼ徹夜の日々を何日も繰り返していた体である。仕事のある内は,あまり負担に感じてはいなかったが,こうしてくつろげる空間に居ると,いかに自分が自分を酷使していたか,わかってしまう。体の節々,肩や首が悲鳴をあげている。

 柔らかいソファに埋もれる幸せ。一ヶ月頑張った自分に与えられる最高の贅沢だ。
 これに熱いお茶でも飲んで,読書でも楽しむか,と思いつつ,気が付けばぼんやりとテレビのニュースチャンネルを回していた。世間の動向をついチェックしてしまう,もはや仕事病だな,とロシウは苦笑する。
 補佐官という身分に与えられた部屋は広い。
 大きなソファセットを置いてなお空間の余りある居間は,どこか無機質ではあるが清潔で解放感がある。据え付けられたテレビもまた,最新式の大画面薄型。
 カミナシティ郊外の模様を映した画面で,にこやかにキャスターが話している。どうやら大きなニュースもないようだ。明日のカミナシティの天気は晴れ。カタツムリ枝に這い,世は全て事も無し。
 やれやれ,平和が一番だな,とすっかり年寄りのような気分で,ロシウは深くソファにかけ直す。

 やがて次の番組への橋渡し,5分余りのコマーシャルの時間に入る。頭を空っぽにして,見るとも無しに眺める,カラフルな商品広告。大きな画面いっぱいに,今清純派で売り出し中と小耳に挟んだ若いアイドルが映る。カメラはひかれ,学生服姿の彼女は手にハート形の物体を持って,何やらもじもじと,告白めいたことを口にしている。

 ・・・いったい何のCMだろう。
 


 全く集中していない頭に本当に薄ぼんやりと浮かんだ疑問。
 しかし,その疑問を追いかける間もなく,彼女の表情から切り替わった画面を眼にした途端------

 ロシウはテレビにむかって滝のごとく茶を吹いた。

 そこに映っていた人物は,紛れもなく,我らが------人類の英雄にして革命の寵児,今や地球一の権力を持っていると言って良い,カミナシティの総司令------シモン,その人だったから。

 15秒のち,わなわなと震える指が,恐ろしい速さで新政府直通の番号を押していた。

「緊急招集をかけろ!!時間?そんなことは関係ない!非常事態だ,総司令を呼べえええええ!!!」



「説明してもらえますか,シモン総司令・・・」
「えっと・・・何の話なのかなー,ロシウ君・・・」

 議事堂最上階。総司令室からは,夜なお明るいカミナシティの灯がきらきらと瞬いて見える。
 電話をかけて15分。いつものように寸分の隙なく身支度をしたロシウと,だらしなく青い上着をひっかけて走ってきたシモンが相対している。寝入りばなをたたき起こされたらしい。

「とぼけないでください!!」

 おどおどと顔色を伺ってくるシモンに,ばん!と机を叩いてロシウは詰め寄る。

「一体何なんですか!あのコマーシャルは!」
「コマーシャルって・・ああ,あの,あれ。チョコレートの?」
「あのあれ,じゃありません!総司令ともあろう人が,何でほいほい民間企業のCMに出演しているんですか!!!」

 ロシウが見たのは,最近売り出されてきた,チョコレートというお菓子のコマーシャルだったのだ。総司令がここにやってくる前に,ロシウは販売会社を特定し,急ぎCMのデータを取り寄せて全パターンを視聴している。はっきりいってそれは,見るも恥ずかしい内容のものばかりであった。

 「何ですか,『君のハート,受け取ったよ』って!何ですか『14日はチョコレートの日』って!いつ誰が決めたんですか!明日じゃないですか!」

 CMはパターンがあるといっても,本筋は大体同じものである。
 大元のパターンは,先ほどロシウがテレビで目撃したもの。チョコレートを手にした女子学生が,真っ赤になって差し出す先にカメラがパンすると,やはり制服姿の総司令(自分がいくつだと思っているのかこの人は)が居て,にっこり笑ってチョコレートを受け取る。『君のハート,受け取ったよ』とナレーションが入って,カメラはひいて相手の女優と2ショットになり,終。
 以下,シチュエーションを会社内,大学,病院などと替えて,延々同じパターンが続く。とにかく最後には総司令が笑顔で(ご丁寧に花まで飛ばす演出)チョコを受け取り,『14日はチョコレートの日』という字とキャンペーン広告が出るのがお決まりで。
 相手の女性は変われども,チョコレートを受け取るのは常にシモン総司令。シモンの着せ替えショーと言ってもいい。
 思い出すロシウの広い額に,どんどん太い青筋が浮かんでくる。青虫のようなそれは触ったら切れてしまいそうで,まあ落ち着いて,とシモンは宥めようとしたが,却って逆効果になった。

「これが落ち着いていられますか!人類の英雄が!カミナシティの最高統治者が!何で『ショコラリットを贈って総司令のサインをゲット☆』とかキャンペーンしてるんですか!」

 そう,一番問題なのはそのキャンペーンの部分だ。これが『ショコラリット(商品名)を買って当てよう!』というならまだ良かった。だがそこは『ショコラリットを贈って』となっている。贈って。どこに贈るつもりなのか?つまり総司令になのか?恐ろしくて考えたくはないが,正に総司令に,なのだ。さきほど販売元であるクラカカオ社の重役を電話で詰問したので,ロシウは知っていた。その文言を「贈って」に変えた人物が誰であるかも・・・

「総司令ぃいい・・・!」
「ちょ,何,ロシウ君近いって,こわいって」
「あなたが!あなたが『ショコラリットを総司令に贈ろうキャンペーン』を発案したそうですね・・・」
「え,いや,まあ」
「何でそんなことをしたんですか!」
「いや,どうせならチョコいっぱい食べられたらいいなーなんて・・・」

 そもそも,クラカカオ社の方で考えていたキャンペーンは,『好きな人にチョコレートを贈ろう』というものであった。その上で,買ってくれた人間に抽選で何かプレゼントを,というのがものの始めなのである。出演して頂くシモン総司令は,あくまでイメージキャラクターとして,という位置づけだ。だいたい,それ以上の事を期待などするはずがない。
 彼がCMに出演してくれること自体,異例,奇跡,と誰もが思っていたのだから。
 そこを,総司令自らが「じゃあ,オレに贈るってのはどうかなあ」とつぶやき,さらに,オレが自分で抽選するよ?と発案すれば,否やも応もないだろう。
 というよりも,会社側には願ったり叶ったりである。何しろ,このカミナシティの最大のカリスマ・シモン総司令自らが,自社製品を積極的に買ってくれと民衆にPRしようというのだ。これ以上の宣伝があるだろうか。しかも総司令のサインも付けるという太っ腹ぶり。社員一同,平から社長に至るまで,揉み手をして喜んだのは言うまでもない。

「あなたは何もわかっていない!!」

 ぎりぎりと歯を軋ませてロシウはシモンに背を向ける。
 キャンペーンの文字を見たときのあの絶望感。頭の中を駆けめぐるのは「とんでもないことになる・・」という一文。ロシウには,明日の朝議事堂に到着する宅配車の列が目に見えるようだった。その荷物が全て,チョコ,チョコ,チョコ。それどころじゃない,直接チョコレートを手渡しにやってくる女性も少なくはないだろう。

 この人は自分の一言がどれだけ影響を与えるのか,なんにもわかっていない!

「シモンさん!」
「あ,久しぶりに名前で」
「はぐらかさないで下さい!いいですか!あなたが『チョコを贈ってね』なんて言ったらどうなるか,一瞬たりと考えなかったんですか?!」

 顔だけ振り向いたロシウの形相が物凄く,シモンは怯えた子犬のようにぷるぷると首を横に振る。

「そう・・・ですか・・・っ」

 夜食に食べたものを吐きたくなる。キリキリ痛む胃の辺りを押さえながら,ロシウはゆっくり体ごと向きを変えた。

「良いでしょう・・・この際ですからきちんと説明します」

 冷静に,冷静に,と自らを落ち着かせて,教師のようにシモンの前に立つ。
 全く,できるならばホワイトボードでも出して,この鳥頭の総司令にもわかりやすく説明したいが,生憎ここにはそれがない。

「・・・例えば,あなた宛にシティに住む誰かが小包を送るとします」
「レイテとか?」
「ああはい,誰でもいいんですけどね。とにかく,政府内でない所から物が送られて,この執務室に届くまでの行程を総司令は知っていますか?」

 知らない,の意味を込めて無邪気に首を振る,ええ仕草だけならば本当に可愛いと思いますよ総司令。

「小包はまず議事堂正面入口に届きます。ここで宛名は確認され,一般職員宛であれば簡単な不審物チェックシステムを通した後,そのまま各部署の宛先まで運ばれます。しかし,これが局長クラス,そして僕,さらに最上位であるあなたの宛名であれば,話は変わってきます。
 ・・・小包はまずプラスチック爆弾クラスの爆発に耐えうる特殊ボックスに入れられ,振動の全く出ない特別カートに乗せられて科学局に運ばれます。そこから検査に次ぐ検査の始まりです。X線,熱感知装置,ガス感知装置,その他考え得る全ての方法を使って,中身の危険の有無を確かめるんですよ。
 しかもこの中身が食品であったなら,尚更複雑な方法が必要になる」

 毒物検査,ウィルス検査,細菌検査。既存のものでない,未発見・未解析のものが含まれていないとも限らない。あるいは,時限式に溶け出したり発散されるようなもの,体液に反応して初めて発現するものの場合もある。

「なっ・・・!何でそんなに警戒する必要が」
「ご自分の立場をわかってらっしゃいますか?民衆の大多数は確かに総司令を支持していますが,未だに反政府ゲリラや,獣人の残党がいることはご存じでしょう!
 あなたを・・・いえ,あなたに,害を為そうとする者がいるのは事実です」

 一瞬言いかけた言葉を,悟られぬようにロシウは言い換えた。

 『・・・あなたを殺そうとしている者はたくさんいるんです』

 この話だけでとても信じられないという顔をしている人に,直接的な言葉を聞かせるのが忍びなかった。厳しい自覚を持って欲しいのは本音だが,何より人を信じる力の強いシモンという人間を,強いて悲しませるような事はやはりしたくない。
 この話題は早々に切り上げようと,ロシウは殊更に顎をあげて強気の姿勢を保つ。

「・・・さて,このカミナシティの推定人口は20万人弱です。その中の女性の数を,仮にざっくり割って10万人とします。あなたにチョコレートを贈ってくるであろう年齢層はざっと考えて10~50代」
「ご,50代とかもいる?」
「居ますよ」

 この人は自分の人気というものを,本当に知らないらしい。
 一時期,カミナシティでは総司令の写真(恐らく隠し撮り)を勝手にプリントした商品が大量に出回ったことがある。
 むろん政府は公式にそんな商品を売り出したことなど一度もない。これら海賊(?)商品の売り上げは高く,政府としては無視できない数字に上っていたため,あるとき一斉検挙,販売停止を行ったのだ。
 押収した顧客リストの8割は女性であり,年齢も多岐にわたっていた。中には40~50代の年嵩の客も相当数いたのだ。確かに初めてそれを知ったときはロシウも驚いたものである。
 とはいえ,この事は市の重大事ではない。そう思ったロシウは,シモンの耳に入れなくても良いと思い,報告をしないでいたのだ。知らなくても無理はない。

「地上解放戦以降,出生率は爆発的に増えています。ですから,その年代の幅でも半数に満たないくらいでしょう。大まかに見積もって,4万人」
「4万・・・」
「まあ4万人全員があなたにチョコレートを贈りはしない。ただ,シティの人間はお祭りごとを好む傾向もありますから,今回一回だけ試しのように贈るかもしれません。少なめに見積もって3万人」
「全然少なくないじゃないか!」
「そうですよ!やっとお分かりになりましたか?総司令・・・!!
 あなたの発言のおかげで!明日14日!この議事堂に確実に3万個のチョコレートが届くんです!
 大体あの放送はシティだけじゃない,全国的なものなんですよ?!3万で終わる可能性は極めて低い」

 さすがのシモンも,事の重大さをやっと理解したらしい。仁王立ちで顎を突き出しているロシウの前に,しおしおと小さくなっていく。

「さて,総司令?いったいそのチョコレートをどうやって食べるおつもりですか。あなたの胃も無限大ではないでしょう。かといって政府の倉庫に無駄な空きなんかありませんよ?
 第一,その前に行われる検査にどれくらい時間がかかると思っているんですか。この議事堂の職員全員狩り集めても1日で終わるものではありませんよ!その間,政府機能は完全ストップ,ゲリラが蜂起でもしたら,このシティは抵抗する間もなく陥落です!」

 静かな声。逆ハの字につり上がった眉と眉間の皺。怒りを秘めた黒い瞳がシモンの顔を突き刺してくる。畳みかける言葉に合わせて,ずいずいと前に踏み出す補佐官の勢いに,シモンはずずずと後ずさる。

「それは・・・その・・・考えすぎじゃぁ」
「どう!する!おつもりですかっ!」

 ホールドアップの姿勢で後ろへ後ろへ歩いていた背中に,固い感触が当たる。壁に追いつめられて身を縮めるシモンを,ロシウはそれはそれは冷たい視線で射抜いた。追いつめられた総司令の喉はごくりと音を立てる。
 沈黙が執務室を圧迫していく。
 ややあって,青い上着の背中はそのまま壁にそって落ちていき,ぺたりと座り込んだ。紺青の髪がぱさりと前に落ちる。

「・・・ごめん,ロシウ」

 下を向いて唇を噛みしめて,小さな声が漏れた。

「そんな大事になるなんて,考えて無くて・・・ごめん。オレ,どうしたらいいかわからない」

 顔が見えないのを良いことに,ロシウはこっそり表情を和らげる。

 ・・・ちょっといじめすぎたかな。

 最近やっとついてきた威厳もどこへやら,シモンは膝を抱えてすっかり落ち込んでしまった。多分無意識なのだろう,右手はポケットから愛用のドリルペンを取り出し,カーペットをいじりだす。このまま放っておいたら,どりどり呟きながらきっと穴を掘りだすに違いない。
 一度穴だらけになったことのある執務机の事を思い出して,ロシウは軽くため息をついた。
 結局この人は,未だ穴掘りシモンの自分から抜け出し切れていないのだ。自分が時代の寵児であることに慣れていない。そんな自分を想像することもできないのだ。すっかり長い手足を縮めて,穴蔵に押し込められているように丸まって,まるで昔のように。
 それは本当に困ったことなのだけれど,同時に,本当にシモンさんらしい事であって。
 苦笑いにも似た,しかし,柔らかな色がロシウの顔をかすめる。結句,そんな彼を支えていきたいと思っているのも自分なのだから,致し方ない。
 とりあえず,たまにはこれぐらい脅かして,もっと自分の立場に自覚を持ってもらおう。
 咳払いを一つして,ロシウは先ほどのような渋面をわざと作った。

「・・・」
「・・・シモンさん,反省してらっしゃいますか」

 覗き込むと力無く首が頷いて,その余りの力なさに,ロシウの胸が少し痛んだ。やはり元気のないこの人は見たくない。

「こんな軽率な事は今回限りでお願いします」
「・・・はい」

 返事はまだ小さい。
 今度こそロシウはわかるくらいに微笑して,わざとらしくため息をついた。

 「さて!持込物検査の機械の事ですが・・・非破壊非接触,物体を通すのみで数ミリグラムの爆薬でも発見できるものと,毒物及び細菌など人体に影響を及ぼすあらゆる微生物を感知できるものが,幸いこのカミナシティには存在します。
 それらを連結設置できるよう,科学局が今,夜を徹して作業を行ってくれていますよ。この機械を通す検査ならば,一つのチョコレートに対して5秒程度で作業を終える事ができるでしょう」

 説明しながら,大概僕も甘いな,と胸の中で呟く。
 最初は責任の重さや職員の苦労を実感してもらうために,シモン総司令その人に全てのチェックを任せようかと思いもしたが,それも一瞬の事だった。単に効率が悪い,という理由もあるが。
 うなだれていたシモンは,希望の光を見出した目を見開いて,ロシウを見上げている。ほらそんな目で見られたら,あなたを少しは喜ばせずに居られない。

「機械一台につき監督者が一人居れば良いですから,人員も要りません。明日この星が無政府状態になることもないですよ」

 ご安心ください,という声をできるだけ固くしようと思っていたのに,出てきたのはプライベートでも滅多に使わないような優しい口調だった。
 総司令の顔が,地の底からはい上がってきた人のようにぱあっと明るくなる。

「ありがとう,ロシウ・・・!」
「礼は良いです。とりあえず科学局の力に感謝してください」

 この件はシモン総司令だけの責任ではないですから,このくらいにしておきます,と意味深につぶやく声が聞こえたか聞こえないか,元気を取り戻した張本人は,「やったあ!」と飛び上がって叫んでいる。
 単純なのが取り柄ではあるが,現在徹夜状態で作業しているテツカンやリーロンの事を思い,ロシウはあわてて釘を刺す。

「・・・そのような次第で,機械は用意します。が,その代わり!」

 浮かれるシモンの動きが止まる。まだ何かあるの?という視線に,いつも通りに戻った補佐官は,淡々と説明を始めた。

「今回のキャンペーンは間違いなく成功してしまう。同業他社はおろか,あらゆる業種形態の会社から,総司令宛にCMの引き合いが来ますよ。これを理由もなく断れば,政府に対する不満がつのりかねない。
 ですから,まず,どうしてチョコレートという物に特化して総司令がPRを行ったのかを説明しなくてはなりません。仕事その1,政府がチョコレート販売に力を入れる理由を具体的に示す資料を用意しますから,まずそれを承認してください。調べたところ,チョコレートの成分であるカカオにはリラックス効果があること,また含まれる繊維も特殊で有効性が高いことなどが判明しましたので,その辺りを上手くこじつけます。
 ああ,原稿は書かせています,ですから仕事その2,明日朝一番に総司令自ら会見をお願いします。
 ・・・とはいえ,同業者の方は納得しないでしょうから,平等に扱うために,今後チョコレートを販売する会社に限って,政府がPR活動に貢献する,という方向で具体案をまとめていきますよ。貢献する,といっても総司令をCMに貸します,という程度のものですが。
 幸い,現在チョコレートを生産販売している会社は3社ほどです。それほど通常業務の負担にはならないでしょう」
「あの・・・本当に・・・オレの一言が・・・そんな事まで・・・」

 おどおどつぶやく総司令の前で,ロシウは恐ろしい程にっこりと笑う。

「ええ!ですからこれに懲りて軽はずみな行動は慎んで下さいね?
 ・・・さあて,これから特急で済ませて頂かないと行けない申請書類が山積みになります。自業自得と思って,死ぬ気で頑張って下さい。
 もちろん,明日は通常業務もばっちり入ってます。あ,総司令は今日はこちらにお泊まりとニアさんに連絡を入れましたから,心配無用」

 一気に言い放った後,では,書類をお持ちします,と黒髪を翻した背中を見送って,ただただ呆然とするシモンの前に,執務室の扉は無情にも一瞬で閉まる。
 深夜の渡り廊下を歩く,苦労性で割り切りの早い補佐官の額はどこまでも広く,明日の朝日より前に明るく輝いていた。



 ・・・優秀な補佐官の予言通り,このキャンペーンは全国に大きなブームを巻き起こした。

 2月14日という日をなぜチョコレートの日と定めたか,という記者団の質問に対し挙動不審に陥った総司令が振り仰ぐと,故事来歴に長けた黒髪の人物は,まことしやかに,恋人達の為に殉教した古代の僧侶の名前を挙げた。
 そしてそれにちなんで,政府としては家族や友人など,身近な大切な人達に贈り物をする日として推奨したいと会見をしめくくったという。
 もちろん,そんな表向きの理由に反して,好きな異性にチョコレートを贈る日としてこの日は年々有名となった。

カレンダーにも掲載されるまでとなったこの日の事を,喜ぶべきか,悲しむべきか。後年,ロシウ大統領は思い出とともに苦笑いしたのだった。
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