「Idolization」
いつからだったのだろう。
この艦はヒトに溢れている。みな希望に満ちた顔をして。
暗い穴を出て、清々しい空気を思うさま吸えるようになった人々は、当然、この状況をもたらしてくれた存在に熱狂した。
誰もがここに集まりたがった。地上に導き出してくれた英雄達に混じりたがった。
まだ獣人を一掃したわけではなかったから、残党のある地域からは毎日のように難民が流れ込んでもくる。気が付けばダイグレンは、地上における希望の箱船にされていたのだ。
日々はあまりに忙しく過ぎていく。
村落・部落の長、指導者達との話し合い。(難民の受け入れや武器の指導、食糧自給にかんする情報交換)血気盛んな若者達の入団試験。(有用な人材は増えるに越したことはない)時には懲りない獣人の残党を叩きに遠征し(ガンメンも手に入って一石二鳥!)食料確保のために大がかりな狩りにも出る。
そんな目まぐるしい、日々の渦の中心に、いつでも彼は立っていた。あの日、天を指さして、大見得をきった少年が。
否、集まってくる者たちは、もう彼を、シモンを、少年などと思ってはいない。並み居る獣人を単機で蹴散らす鬼神。希望をもたらす箱船のリーダー。「シモン」、その名を呼ぶのは古参の団員たちばかり。彼らさえ、いつしか名前を口にせず、「艦長」と呼びかけることが増えていた。
会議の席で。話し合いの席で。戦いの場で。指導の場で。シモンは静かだ。事実上のまとめや交渉はダヤッカやリーロン、新しく入った年長の団員たちが行っている。ただ、要の場面で指揮を仰ぐとき、了解を得るとき、彼らは小さな艦長を見る。その判断を請う。
居ても居なくても良いのではない。居なくてはならないのだ。最終的な決断は、艦長に委ねられている。
誰もが忘れかけていた。つい数年前まで、彼が小さな子供だったこと。戦いに怯えて逃げたこと。誰かに背中を押されなければ歩けなかったことを。覚えている者も、それを頭の隅に追いやっていたのだ。現実があまりに忙しすぎて。ただ一団のレジスタンスだったはずの彼らが、まるで地上全ての希望の源のようになってしまっていたから。それは本当にありがたく誇らしい事だったのだけれど、自分たちがこのままどこへ行ってしまうのか、という不安が彼らの心に時々よぎるのだ。それを振り払いながら、目の前の問題を仕事を片づけていく彼らもまた、小さな艦長を拠り所にして立っていたから。
ではシモンの拠り所は?
以前に増して大人びて、まるで自信に満ちた声音で、ときに指示を、叱咤を、労りを口にする。その急激な成長ぶりを、歓迎こそすれ、不思議に思うものはほとんど居なかった。大きな経験が、そうさせたのだろうと。信じて疑わなかった。
誰も、その瞳の奥を、覗いてみようとはしなかったのだ。
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螺旋王を倒した後、という設定で。
17話の前にしあげてしまいたい!
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