2, 同日,夕刻,人民局戸籍作成室
新しい戸籍作りの為に,職員達が集まってきた個人データを端末に打ち込んでいる。機械で読み取らせても良いのだが,書き込みミスがあった場合など想定すると,結局最終チェックを行わなければならないので,先に人の目で確認してから打ち込む事になっているのだ。
まだ仮段階ということで,政府職員のみから集められたデータである。おかげで有り難いことに,基本的に誤字は少なく,内容の齟齬もない。政府に集められている人間はレヴェルが高く,一般の人間に比べると識字率や知識が高いためだ。
それでもなお,意識しない誤字や勘違いは必ず起きる。今後地上に住む人間全てのデータを管理する段になったら,まずデータ集めと誤字の修正にどれだけ苦労することだろう。先の事を考えると,職員達はため息をつきたくなった。
「・・・やっぱりないなあ,コアチッチ村なんて」
検索端末を操作していた一人が,困惑してディスプレイを眺めている。どうした?と寄ってきた同僚に,彼は画面をさして見せた。
「ほら,グレン団の,砲手で有名な人いるだろ。アーテンボローさん。あの人の出身地が,どう探しても見つからないんだ」
「見つからないって・・・この端末で見つからないなんて事あり得るか?」
同僚が目を丸くする。
彼が驚くのも無理はない。今人民局が戸籍作成の一助としている検索システムは,螺旋王の奇跡の一つだ。このシステムにかかれば,この星の地下にある全ての集落の場所が把握できる・・・細大漏らさず,全て,だ。
今現在人が暮らしている場所はもちろん,過去数百年の間に集落があったとみなされる跡地まで,探索することができる。
恐らく,彼は---螺旋王は,このシステムを使って,地下の人間たちを監視していたのだろう。それを思うと忌々しい限りではある。が,平和になった今,星にあふれる人口を調査するためにこれほど素晴らしいものはない。
「名もない廃墟とかの類もないのか?」
「ないなあ。大体,そういうのは螺旋王がもう調べ尽くしてデータに残ってるんだよ。新しく人間が住み着いてないかどうか,定期的に監視してたらしい」
それでも見つからないとなると・・・
2人の職員はお互い腕組みをして考え込む。
「さすがの螺旋王のシステムにも,抜けかミスがあったか・・・」
「・・・あるいは,その村は,跡も残らないほど破壊されて埋められたか,だな」
後者の意見は,ついこの間まで螺旋王の脅威に怯えていた彼らにとって生々しく響いた。
バチカ村は燃える水という資源があったせいで,獣人に焼き尽くされたという。何をもって螺旋王の怒りをかったかはわからないが,コアチッチという村も同じように,あるいはもっとひどい状況にさらされたのかもしれない。
しばし瞑目した2人は,結局彼の戸籍を問題なしとして登録することに決めた。悲しい記憶のあるかもしれない姓を名乗る一人のグレン団員に,密かに敬意を表しながら。
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