お題・5つの症状より
2.目眩
「おいおい、頼むからここで寝るんじゃねえぞ」
そう言ったのに、腕の中の弟分はどんどん温かくなっていく。眠くて体温あがる、子供か、こいつは。
「水辺のそばで寝たら風邪ひくっつってんだよ・・・・・・シモン」
柄にもないことを言ってみるが、シモンは起きようとする気配がない。これはあれだな、えーと、なんだ?
カミナの思い出したかったのは『条件反射』という言葉だったが、思い出せないものは良いことにする。つまりあれだ、地下で寝てるときとおんなじ感じだから眠くなったんだな。
そういえば、まだガキの頃は割とこいつと一緒に寝てた。二人の方が温かいから、薄い毛布でも寒さがしのげる。あのケチ村長、よく働くシモンはともかく、俺にはろくな毛布よこしゃあがらなかったからな・・・・・・
それも、カミナが本格的に(といってもたかが知れているが)グレン団を立ち上げて、横穴掘りもさぼって夜遊ぶ(これも遊ぶと言っても、地上に行く作戦を練ったり、女を冷やかしたりするくらいだった)ようになってからは殆どなくなっていた。
ただ、夕方や夜に地震のあった時だけ。どうにも気になって、自分からシモンの穴へ行った。そんなときシモンはいつだって、小さい体をこれ以上ないくらいに縮めて、隅っこで震えていたから。
そこに自分が入っていくと、嬉しいのか辛いのか、わからないような目で俺を見上げる。涙で目の縁が赤いのを隠しもせずに。
『男が地震くらいで泣くんじゃねえ!』
普段の俺なら言うところだ。なのに。いつも、その時だけはそんな言葉が出てこない。
本当を言えば俺も地震の日が嫌いだ。恐いってんじゃない。地震が来るたびに、期待してしまうのだ。大きな大きな地震がきて、あの天井が割れる。きっと地上への道ができる。
--------そうしたら、おれは。
親父が出て行った日から、俺は地震が来るたびに密かに期待して、落胆して。ほとんど無意識に何年もそれを繰り返していた。だから、地震がある日は、特にあの日一度だけ見た真っ赤な空が見えるはずの、夕方に地震が会った日は、むしゃくしゃして、誰とも会いたくなくて、そのくせ一人で眠りたくない、のだ。
口実だよな、結局。シモンが心配だとか。兄貴分として見に行ってやる、なんてのは。だからあいつの弱さを怒鳴るなんてこともできない。俺も同じだ。お前と同じだ。そう心だけで呟いて、シモンの隣に腰を下ろす。無言で腕を出して。眠りやすいように。すがりやすいように。そうして、シモンが寝息を立て始めるのを確認すると、俺も妙に気分が落ち着いて、自然に眠ってしまう。腕と胸にある重みが気持ちいい。
あの頃はそうだった・・・・・・・確かに。
ただ、今は。
月明かりの下で、安心しきったような顔で体を預けてこられて、どうにも弱る。こいつは、まだ地上に慣れていなくて不安があるから、昔のように俺の腕の中が気持ちいい、のかもしれない。
俺の方は少し勝手が違ってきてるんだよなあ・・・・・・・・
いつ頃からか、こいつの体の感触が少し変わってきて。少しは大きくなったな、なんてそれこそ親みたいに思っていたけれど。地上に出て、あからさまな太陽の下で見るようになってから・・・・・・おかしくなった。
時々、くらくらする。なんでお前そんなに細いんだ。お前なんでそんなに白いんだ。俺をじっと見つめる真ん丸の目も、なんでそんなに・・・・・・なんつーか・・・言いたかないんだが・・・・・・可愛いんだ?
細い肩、細い足、細い腰。おかしいと思う。そんなところに目がいくのは。気が付くとスキンシップ。肩を抱いて、頭を撫でて、首をつかんで。そのたびに、くすぐったそうに嬉しそうに見上げる顔ときたら。
そして今も腕の中。そんな無防備な顔して眠ってやがる。目に入るのは、鎖骨、うなじ、小さな耳。俺の心臓の音を確かめるみたいに、擦りつけてくる。
やわらかい、みみ。このまま、食いついてしまえ。
・・・・・・・・・・・・・・・・っっっっっだあーーーーーーーーー!違う!間違い!
ぐらぐらする頭を振って月を見上げる。腕の中は温かくて、顔は火よりも熱くて。
どうしちまったかな、俺は、と月につぶやいたところでどうにもならず。もうしばらく、この目眩と付き合うほかないんだな、と観念した。
1.から続いてます。
タイトル配布元:http://sheep.iinaa.net/index.html ヒツジノユメカタリさま
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