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Posted by ふじみき - 2007.08.15,Wed

 

・・・確かにその日、俺は浮かれていたのだ。

 

 シモンの穴蔵を訪れる少し前。俺はまた酒盛りに呼ばれて、のこのこ家から出てきていた。

 酒盛りは楽しい。酒が好き、というより、あの雰囲気が好きだ。辛気くせえ顔して働いてた奴ら、年寄りも男も女も、急に元気になる。陽気になる。明日っからのことはひとまず忘れて、今を楽しんでる。そんなところに身を置くのが好きなんだ。もちろん、タダ飯という大事な要素を忘れちゃいけねえ。

 


 酒盛りの穴は大いに盛り上がっていた。めずらしく、今日は女も多い。たいがい俺が呼ばれる席は男ばかりのことが多いんだが、ブタモグラ農場のやつらが機織り女たちを呼んだらしい。ブタモグラの毛で糸を作ったり皮で服や小物を作ったりしている連中だ。ババアも多いが、なかなかナイスなお姉さん方も多いのが魅力だな。普段はこういう席にはあまり顔を出さない、きれいどころも出てきている。毛狩りの季節が終わったところだから、機織りも忙しくなるんだろう。総出で景気づけの宴会、ってわけだ。

 俺は例によって例のごとく------一番うまそうな肉のあるところに陣取って、あとは注がれるままに酒を飲む。食べ物さえありゃ俺はザルだ。またおもしろがってオヤジどもがどんどん酒をよこす。

俺の飲みっぷりを知らねえ姉さん達は、最初は、「子供にそんなに飲ませないで」「やめなさいよ」なんて止めていたが、いくら飲んでも酔わねえのに驚いて、最後には大喜びで俺に酒を勧める始末だ。へん、どんなもんだ。子供だなんてこのカミナさまを呼ぶんじゃねぇや。

まあしかしなんだな、むさいオヤジに酒を注がれるよりは、べっぴんの姉さんに注がれる方が10倍酒がうまくなるもんだ。近づくと、女ってぇのはなんだか良い匂いがしたりするし。たまにはこんなのも悪くねぇ。

いい具合に食べて飲んで。いつもより酒は過ぎた、かもしれない。肉はシモンの家で食うやつの方がうまかったが、まあ腹はくちくなったし、そろそろ抜けだすか。

気分は上々。宴はたけなわもたけなわで、誰が抜けようが入ろうが、もうここのおっさんたちにはわかんねえだろう。歌を歌う。羽目をはずす。けっこうけっこう!

喧噪を尻目に、こっそり穴の入口に向かう。外に音が漏れないように、入口を塞いで二重にかかっている毛皮をそろりと持ち上げて、中腰でさっと出る。うし、脱出完了。あとは満腹になった腹を抱えて、やかましい村長が来る前に家に戻るだけだ。

雪駄の音も高らかに、そろそろ落とされ始めた光の中。鼻歌交じりに歩き出した俺の肩、に。ひやり、と柔らかいものがさわった。

 

「うおお?!」

 

思わず飛びすさった。声は小声で。焦って振り向いた先に居たのは、さっきの宴会にいた一人。さらさらした髪を一つにして流して、全体的にほっそりした印象だった。目が少し潤みがちな・・・機織り女の中でもかなり高レベルの・・・つまりなかなかの美人だ。俺よりはそりゃ10くらい上かもしれないが。確か俺の隣に居て、酒や食事を良く勧めてくれてたな。

女は俺の反応に「あら」というような声を出したが、別に驚くでもなく。引いた手を口元にして、にっこりと艶のある笑みを返す。もう一度肩に軽く手を載せて。

 

「カミナ」

「お、おう」

 

返事した声が自分でもわかるくらい固い声だったので、舌打ちしたくなる。案の定女はふふふ、と笑った。腕にも力が入っているのがわかったんだろう。その腕をさらり、となでられて動けなくなる。

 

「子供だと思ってたけど・・・あんたの飲みっぷり、気に入ったわ」

「そ、んなのあったりめえだ!俺を誰だと思ってやがる!」

「うん、そういう強気なとこも良い・・・そのうち、消灯の後にでも」

 

うちに遊びにいらっしゃいね。

耳元で声がした、と思ったら。ふわふわとしたものが、俺の口を塞いでた。一瞬のこと。ふわり、と甘い香り。目を見開いたときには、もう離れていて。きれいなおねえさんは、ひらひらと手を振って、また毛皮の扉の向こうに消えてった。

 ひるがえった毛皮の揺れが収まるまで、俺は固まっていて。

 

 つまり。

 これは。

 いわゆる。

 ひとつの。

 

 『キスってやつかあああああああ!!!』

 

 よおっっしゃあああ!と村の真ん中で、天に拳を突き上げた!

 話には聞いていた。俺ぐらいの年のやつらは、集まると大抵女の話になるからだ。やれ、どこそこの女に惚れただの、振られただの落としただの。とはいえ、まだ子供と呼ばれる年齢だ。内容なんて他愛ないもんで、せいぜい手を握ったとか、最高でもキスをしたとかいう話でさんざん盛り上がってやがる。俺は、その手の話にはのらない方だったが、いやでも耳には入ってくる。興味ねえ、なんて言ってみても、同年代のやつらが、俺の知らない領域に踏み込んで行っているのを聞くと、なんつーか、焦るような気持ちがあった。何で俺が子分みてえなやつらに先越されてるンだよ!しかし、焦ったところで、急にそんな事が起こる訳がねえ。大体、あいつらが追っかけ回してるような、年の近え、小生意気な女どもには、本当に食指が動かないのだ。どう見てもめんどくさそうな奴ばかりで。あいつらが固まって話してるのを見るとぞっとする。

 

 だが、今日は違う!正真正銘、大人の女と!俺は、キスをしたわけだ!一気にあいつらを引き離してやったわけだ!

 

 この時の俺は、だから、キスの感触とかそういうのはかなりどうでも良く。(あとで少し思い出したが)むしろ兄貴分としてのプライドを保てた事が、かなり重要だった気がする。

 それにしたところで、有頂天だった事には変わりなく、これを誰かに話してえ・・・ぶっちゃけてしまえば自慢してえ気持ちでいっぱいだった。しかし、わざわざ今から子分どもを呼び出すわけにもいかないわけで。

こういうとき、まず気軽に話に行けるのが誰かと言えば・・・そりゃあ、あいつしか居ないだろう。よしよし、世間知らずの弟分に、このカミナさまがいっちょ指南してやろうじゃねえか!

 

 

そんな軽い気持ちで、この穴蔵に飛び込んだ。

 

 

そして、今俺の目の前には------目をつむって、キスを待っている弟分。シモンが、居る。

 

 

 勢いで、こんな風にさせてしまったが。ここに来て、俺ははたと止まってしまった。

 そもそもは、俺の体験の自慢がしたくて------だがそのためには、まずシモンがキスとは何たるものか、知ってなきゃいけなかったわけで------案の定知らなかった------酔っぱらいの頭では説明も追いつかず、いつまでも首をかしげる可愛い弟分に、実地で教えてやろう------と思ったわけだが。

うん、最後のが少し間違ってる。実地、って。

だいたいキスって男同士でするものか?聞いた事ねえや。

けど、だからといって、今ここにだれか女を呼んできて、試してやってくれ、っつうのも・・・・・・無理だ。やばい。酔いが覚めてきた。

 

 「・・・カミナ?」

 

 目をつぶったままほったらかされたシモンが不安そうな声を出す。もういいの?まだ?そんなことを小さい声で言っているのが聞こえる。なんだ可愛い声出しやがって畜生。

 

 ・・・っっぇええぇい。男は退かねえ悔やまねえ!約束したからにゃ、やってやろうじゃねぇか!

 

 度胸を決めて、まずシモンの正面に座り直す。

大体やりかたが良くわかんねーんだっ!さっきはいきなり向こうからされたんだからな!って誰に言い訳してるんだ俺。

 とりあえず、とりあえずこいつの両肩を軽くつかんで・・・う、相変わらず細いな、おい。

肉食ってる割には育たない体。そのくせ、毎日穴掘り仕事してるのが効いてんのか、しなやかっつうか張りがあるっつうか、触り心地がいいっつうか・・・いや今そういう事考えてる場合じゃねえんだよ。

 あらためて、肩をやさしく掴んで固定する。目標とするところの・・・その、シモンの口、だ。それが動かないように。

 いつもまん丸い目で俺のことを追いかけてくる。その目が、閉じられて近くにあるのが何だか不思議だ。いや、寝顔なんかで良く見てるはずなんだが。

 少しずつ、顔を近づけて。睫毛長ぇ、とか今更。

 たいがいに長い俺の前髪が、俺自身より先にシモンの黒い髪に触れる。さらさらした感触が伝わってくる。指で触っているわけでもないのに。どこまで、俺の神経尖ってきてるんだ?音なんかしないはずの心臓が、ばくばく言ってるのが聞こえるのは何なんだ?

 長く上を向いているせいか、シモンの唇は軽く開いてきている。つやつやして、薄赤い、色。白い前歯が少しだけのぞく。

 やばい。何かわからねえがやばい。

壊れ物みたいなそれ、に、自分の唇を合わせるのが、ひどく悪ぃことのように思えてくる。見ているだけでも、十分頭に血が昇って、体がろくに動かない。何だ、これ。

そのくせ、今つかんでいるこの肩を細い肩をこのままぎゅうと引き寄せて、いっそ抱きしめてしまいたいような、衝動が走っていて。

ごくり、と喉がなる。その途端、俺の手に力が入ったんだろう。

 

「っ痛・・・カミナ・・」

 

 見つめていた、唇から。吐息混じりに自分の名前がこぼれた、そのかすれ声。ぞく、と得体のしれない感覚が体を突き抜ける。

 

気が付けば闇雲に、突き動かされたように。肩を乱暴に引き寄せて、俺はその唇を奪っていた。

 

 触れあったそれ、は俺にいとも簡単に食われちまいそうに、柔らかくて脆い感触。すぐ離すつもりだったのに・・・どういう訳か離せない。

添い寝してるときより遙かに近い、シモンの体からはミルクのような匂いがする。こいつ、またブタモグラの乳を飲んでたな。頭の隅でそんな事を考える。子供っぽい、と馬鹿にしてたその匂いすら、甘い。甘い。

 もっとその溺れそうに柔らかい感触を確かめたくて。ほんの少しだけ口の角度を変えて、シモンの唇をくわえてみる。びくり、と細い体に反応があって、くわえた唇も震える。一瞬わずかに感じた、シモンの吐息の熱さといったら。

恐ろしいことにその時俺は。俺の中に生まれたのは。純粋にうれしい、という気持ちと、もっと、その先の反応を見たい、という・・・欲求、だった。

 もっと貪って。もっと震えさせたら。その先に何があるのか、俺にもわからねえが・・・俺自身ももう、正直頭ん中がどうにかなっていた。

なんでキスしたとか、その前にした女とのキスとか。そんなものが全部吹っ飛んで、今手の中にあるやわらかい体と、眉を寄せて耐えている表情の信じられないような色気と、俺のなのかシモンのなのかもうわからない息の熱、だけ。

もう一度、確かな口づけを。気が付けばシモンのしなやかな腕が俺の肩におずおずとまわされている。

だあーっもうっ!可愛いんだよ!このまま押し倒しちまおうか畜生--------

 

 

「消灯!消灯!いつまで電気をつけてるんだ!」

 

いきなり、入口のそばで村長のドラ声が響く。

 

ふいをつかれた俺が固まるのと同時に、シモンがあわてて腕をはなして部屋の隅まで飛び退いた。

気まぐれに大声を出したらしい村長の足音はしばらく部屋の周りで聞こえたが、やがて遠くへ消えていく。ふー・・・とため息が出た。熱っぽい頭を上げて、ふと見れば、反対側の壁まですっ飛んでいたシモンがこちらを見ている。

 

「カ・・・カミナ・・」

 

薄暗い穴蔵でもわかるほどに、頬のあたりを真っ赤にして。目元は少し潤んでいて。おいやばいやばいその顔はやばいぞシモン。

 

 「いまの、が、キス、だったの?」

 

 たのむ、やめろその腰が砕けそうなかすれ声。たのむから、そんなに紅くなった唇でしゃべるな。それが俺の所為だったことを思い出させないでくれ。

 また高まりそうな体の熱をふりはらって、俺は無理矢理胸をはる。

 

 「そ、そうだ!いまのが、キスだ!」

 

 いつものようにふんぞり返った俺に、シモンは安心したのだろうか。少しほっとしたような声音で、「そっか、わかった」とつぶやいた。あああでも、その後に、吐息を交えるのはやめろ。まだ息が上がってるんだな?

 やばい。ここに居たらやばい。俺の中の理性がそう言っている。ここで一晩過ごしたりしたら、どうなるか、俺には検討がつかない。シモンのあんな顔を、見てしまった後に。

そう、酔いなんかすっかり覚めちまってるし、今ならまだ村長に見つからずに家に帰れる、はず、だ。

 

 「じゃ、じゃあ、俺ぁ帰るから、な」

 

 我ながら非常に不自然だ。とにかく片手を上げて、立ち上がると、後は全速力で飛び出した。後ろでシモンが何か言っていたようだが、聞こえねえ聞こえねえ俺はなんにも聞こえませーん!

 

 

 走りながら、無意識に舐めた唇は、何とはなしにミルクの味がする。今更顔に昇ってきた熱をどうすることもできなくて、俺はひたすら走り続けるしかなかった。





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うへえ、恥ずかしい。なんだかとにかく、2人のキス話を書きたくてしょうがなかったのですよ。
なるべく濃ゆく、が私的テーマ(なぜ)だったのですが、あいかわらずできたらこんなんでしたよ!
ぬるい、ぬるま湯だよ!

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Comments
お返事ありがとうございます!v(≧v≦)v
びびっくりいたしました\(◎o◎)/ほぼ勢いだけで書いたような文に丁寧にお返事をいただきまして、嬉しいやら申し訳ないやらあわわな感じにε=ε= (ノT-T)ノ
とにも、ありがとうございました!!どうお礼をしよかとおじゃましましたら素晴らしい作品がっっ!!!
子シモンの無意識のお色気にカミナかそれ以上にやられている人がここに一人‥(>v<)倒
ううっ可愛い(TvT)頑張ったねカミナ!笑
文末走るカミナがほほえましくてたまりません(^^)シモンへの暖かい気持ちがひしひしと伝わってきたというか、←あわわ、何語?!(@@;)あいや~とにかく読んで幸せな気持ちになりました(*^^*)
‥すみません。20話ショックがまだ抜けてないようです。色々感動したのは分かるのですがどこから語ったものか(;v;)なにか落ち着けない感じでしたがコナミコマンドさんの小説で癒されました(^^)ありがとうございます(^-^)
長々と失礼いたしましたつっ
Posted by おゆず - 2007.08.15,Wed 21:29:41 / Edit
無題
何という素敵な文章!
携帯を持ったまま悶えました。
これからも頑張ってください!!
Posted by NONAME - 2007.11.11,Sun 23:35:45 / Edit
無題
かわえぇー 二人のちゅーにドキドキしながら口を半開きにしてハァハァしてました(変態
もーなんなのこのこたち!かわゆいっ!二人が幸せならすべてよし!
Posted by ナキ - 2009.03.06,Fri 14:09:33 / Edit
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