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Posted by ふじみき - 2007.07.06,Fri


お題:「5つの症状」より


1.耳鳴り

 



 今日もまた耳鳴り。

 

 夕食を食べ終わって、リーロンが熱いお茶を入れてくれている。その間に、ほら、また始まった。

 

 今日も原因はたいしたことはない、またアニキがデカ乳だのデカ尻だのとヨーコに言って(大きいことは良いことだと思うんだけど)ヨーコはヨーコで、アニキが狩り下手だとかこの間まで銃も知らない田舎者、とか言って。そんな不毛な言い合いが、どうしてあんなに続くのかな。俺はそもそもヨーコどころか、人とあんなに話を続けたことなんかない。

 

キィ・・・・・ン

 

金属音みたいな。遠くで何かが鳴らされているような。耳の奥から音がする。

 

 


アニキとヨーコ、二人の、二人だけの会話を聞いているといつのまにか、耳鳴りがしてくる。痴話喧嘩、って言うんだったっけ。その言葉をリーロンが口にしたら、二人は突然黙っちゃったんだけど。

 喧嘩するほど仲が良い、これは村でも聞いたことがある。何だかあの二人はしょっちゅうくだらないことで言い争いをして、でもそれが端から見ると本当に楽しそうで、ああ仲良いなあ、と思った時にはもう。

 

 キ、イ・・・・・ン・・・・・キイ・・・・・・・ンンン

 

 ああ、いやだ。この音。周りの風景が遠ざかって見える。現実感に乏しくなる。

 目の前の二人はほとんど取っ組み合わんばかりの状態で、頭を近づけて言い争っている。聞こえる筈なのに聞こえない。まるで自分がココに居ないよう。何なのか解らないけれど不安がせり上がってきて。あんなに顔を近づけたら、何かのはずみでキスだってしちゃうんじゃないだろうか。そんなことを考える自分が嫌で嫌で。

 

 口実をつけて逃げ出した。夜の水汲み。明日の朝用の水を汲んでくるよって。リーロンは感謝してくれてたから、少し罪悪感がある。でも役にたてるんならいいじゃないか。

 

 

 野営地から少し行ったところにある泉は、夜だけれども月明かりでとても明るかった。水の周りには少しだけ小さな木や草が生えている。あまり嗅いだことのない香りがする。草の匂い、ってこれのことかな。地下では見たことのない、瑞々しい緑。昼間にも少し感じたけれど、夜になって匂いは格段に強くなっていた。

 深呼吸する。耳鳴りは少し治まってきていた。

 

 膝をついて、持ってきたタンクを暗く静かな水に沈める。

 まず一つ、さてもう一つ、と思って持ち上げたとき。

 ぐらり、と地面が揺れた。咄嗟に『ガンメン!?』と思ったけれど、それらしい機動音は聞こえない。何だろう、それなのに揺れは収まらない。何だろうこれ、地面ごとゆらゆら左右に揺らされているような・・・・・・

 

 「シモン!!」

 「アニキ!?」

 

 呆然と泉のそばで膝をついていたら、突然聞き慣れた声がして、体ごと抱きすくめられた。声でアニキとわかってはいたけれど、あんまりびっくりして心臓が飛び出るかと思った。

 

 「ど、どうしたのアニキ?」

 「どうしたもこうしたもねえ!近くにガンメンがいやがるだろう!早く戻れ!」

 「ちょ、ちょっと待って、見たの?」

 「いや、見てないが、この揺れだ。お前も言ってたろう、地震はガンメンが起こす揺れだって。こんなに揺れてやがるんだ。何機か来てるに違いねえ・・・・」

 

 アニキの顔はあまりにも真剣で、今にも俺を抱え上げて走り出しそうだった。俺はもがきながらアニキの方を向く。

 

 「アニキ、多分この揺れは違うよ」

 「なんでわかる!」

 「揺れ方が違うんだ。ガンメンが起こす地震は、もっと、なんていうか、縦の方向に揺れるから。これは何だか違う。横にゆらゆらしてるだろう、ほら、それに音も全然しないし」

 

 ああそうだ、リーロンに教えてもらったことを思い出した。確かにガンメンの移動や戦闘で、地下の町に起こる地震もある。でも、本当に地面が底の方から揺れ出す地震もあるんだって。(というか、それこそが本当に「地震」って呼ばれる現象なんだ)

 

 「これが本当の地震なんだなあ・・・」

 「・・・おまえ、意外と冷静だな」

 

 呆れたようにアニキが呟く。

 

 「まあでも安心したぜ、またあん時みたいに恐がってんじゃねえかと思ってたんだけどよ」

 

 さすが俺の弟分、いつまでも地震を恐がったりはしねえな、感心感心、と頭を撫でられる。胸に頭を抱き込まれる。そうかアニキは地震嫌いの俺を心配してくれたのか、といまさら思いつく。

 くすぐったいようなうれしいような気持ちになって、何となく耳をアニキの胸に擦りつけてしまう。さっきまでうるさいくらいだった耳鳴りは、もう止んでいて。

代わりに聞こえるのは、どっくん、どっくん、という音。アニキの鼓動だけ。どうしてこんなに安心するんだろう、この音。地下でアニキと一緒に眠る時なんかに、時々聞いていたけれど。

 

「おいおい、頼むからここで寝るんじゃねえぞ」

 

 そう言われても、弛緩していく体はなかなか止められない。

 

 

 いつの間にか地震は収まっている。

 

 ああ、もしかして俺は、ヨーコにアニキを取られるのが嫌だったのかな。眠気と必死で戦いながら、アニキの腕のなかで、ぼんやりとそんなことを思った。


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3話あたりの間の話ということで。
  

 

 
タイトル配布元:http://sheep.iinaa.net/index.html   ヒツジノユメカタリさま

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