「すっげーカッコ良かった!やっぱあの人すっげーよ!」
「ギミー、うるさい」
新政府の渡り廊下はひどく音が通る。興奮のあまり両手を広げてしゃべりまくる(しかし内容はただ「すげー!」の一言に尽きる)ギミーの声はわんわんと廊下中に響いていた。
「だって本当に凄かっただろ?あー、今日はシモンさん来てくれてラッキー!」
「でもすぐロシウに連れて行かれちゃったじゃない。たぶん仕事サボって来てたんでしょ」
新政府軍の要、グラパール隊。かつて革命の英雄カミナとシモンの乗った「グレンラガン」を模した機体を駆って、周辺地域の治安、及び来たるべき脅威に備えるために作られた、エリート部隊。ギミーとダリーの2人は中でも1,2を争うエースである。機体操縦ならギミー、射撃ならダリー。その上、双子ゆえのコンビネーションの良さも定評がある。
若干14歳とは思えない戦闘力。だが、中身はいたって普通の子供だ。
「ロシウは堅すぎ!オリジナルの操縦者に指導してもらった方が、俺たちの隊にとっても良い事なのに」
今日もいつも通りの戦闘訓練。そう思って演習エリアのドアをくぐったら、思いがけない人物が待っていたのだ。オリジナル・グレンラガンの唯一のメインパイロットにして、新政府総司令こと、シモン。そして、------多分内緒で出した------グレンラガン。
「あれ、相当怒られてると思うわよ。勝手にオリジナル引っ張り出しちゃって」
シモンは基本的に戦闘に参加することを止められている。ロシウが決めたことだ。今あなたが倒れたら、新政府はどうなるんです!と口を酸っぱくして言われているから。もちろん例え演習という名目だって、グレンラガンを出すことが許されるわけがない。グレンラガンは政府の最後の切り札。いたずらに傷つけるなんてとんでもない。
とは言え・・・総司令が自ら格納庫にやってきたら、いったい誰が逆らえるだろう。
まして、愛機の隣に立つ総司令殿は、いかにも『嬉しさいっぱい夢いっぱい!』という顔であり。多分この顔を見せられたら、自分だってロシウの言いつけを破るかも知れない、とギミーなどは思ってしまった程だ。(ロシウも物凄く恐いけど!)
実際その満面の笑みで「ちょっと混ぜてくれよ、ギミー」とおねだり・・・もとい、頼まれ、グラパール隊エースパイロットの権限を使って了承してしまった訳で。
でもそれだけの価値はあった!とギミーは強く思う。
「仮想データ機なんか瞬殺だし!その上、グラパール隊を体術でなぎ倒せる人なんて他にいねーよ!」
まるで操縦者自身の体のように動くグレンラガン。つい本気になって出した渾身のブレードはかわされ、あっという間に背後をとられていた。
------あんなかわいい声で「俺の勝ちぃ!」なんて言われちゃってさ。
完璧に負けを喫したのに何やらニヤニヤしているギミーに、冷たい声が飛ぶ。
「グラパール機は体術なんか想定してないんだから当たり前じゃない。遠隔攻撃で足止め、捕獲が基本だもの。接近戦は弱らせてからか二次的手段。あくまで平和にスマートに・・・」
「・・・・・・何だよー。教科書とロシウ足して2で割ったみたいな事言って」
俺はただ、シモンさんの操縦がすげーって言いたいだけだってば。そう口を尖らせれば、わかってるわよ、とこちらも口を尖らせる。
ギミーがあんまりシモンさんシモンさん、ってうるさいから。ほんの少しの本音がこぼれてしまう。
「・・・・・・ロシウだって、上手だったんだから」
「ダリー?」
「っ、なんでもないっ!」
言ってしまってから横を向いてももう遅い。
そっぽを向いた顔をギミーが不思議そうに眺め、それからにや~っと笑う。
「へ~、ふ~ん、なぁるほどぉ」
「何が『なるほどぉ』なのよ!」
出した拳はひょいと避けられた。バックステップを踏んでいるギミーを睨みつける。
「それで、さっきからなーんかロシウの肩持ってたわけだ~」
「違うわよ!」
「じゃあ何でそんなにムキになってんだよ~」
「うるさい!バカギミー!」
些細なことで始まる小さなバトル。戯れと本気の中間ぐらいの、こんなじゃれ合いは日常茶飯事だ。ひとしきり拳を避けていたものの、突然下方から来た回し蹴りをギミーが肩で受け止めて、ゴングがひとつ。
「いてて・・・蹴りとか反則だろ」
「ギミーがいつまでも逃げ回ってるから、加減ができなくなるんじゃない」
早めに一発殴られてくれれば終わるんだから。
桃色の髪をゆらして一息。とりあえず蹴りを入れたらすっきりした顔をしている。さっぱりしているのは有り難いことだが、いつからこんなに好戦的になったかな、とギミーは苦笑しながら、渡り廊下のガラスにもたれかかる。眼下には喧噪が立ちのぼってきそうなビルの街。
「俺だって覚えてるよ。ロシウがグレンラガンに乗ってた時のこと」
カミナ兄ちゃんが死んだ、あの日から。来る日も来る日も、空いてる時間はガンメンに乗る練習に費やして。獣人が攻めてくれば出来る限り飛んでいってシモンさんと一緒に戦ってた。最後の戦いを、直接見たわけではないけれど、どんなに壮絶だったか、今では想像に難くない。
「ロシウには何度も助けられた、ってシモンさんが昔言ってた」
グラパールに初めて騎乗したとき、打ちのめされるように知った。こんな物を乗りこなしていたのか、あの二人は。機械もガンメンも良く知らないままに。それも、今の自分と殆ど変わらない年で、だ。自分は改良量産機の、このグラパールにさえ手こずっているのに。
気合いで乗ってた、って二人とも言うけれど。
「あの二人には、まだまだ叶わないんだよな、俺は・・・・・・」
いつかまた、二人で乗ってくれれば良いのに。二人が乗って、俺とダリーが脇を固めたら。最高のチームが出来るのに。
「ロシウはもう、乗らないのか、な」
「乗らない・・・。ていうより、乗らないようにしてるんじゃないかな」
ぽつりと問いを落とせば、ダリーが答える。
ロシウは線引きが厳しいから。一度前線に出ないと決めたからには、何が起ころうと二度と乗らない、例外は作らない。そういう人だから。
「それに、シモンさんに乗るな、って言っておいて、自分が乗るわけにも行かないでしょう?ロシウってそういう考え方すると思う」
本当はきっと、あの二人はとっても似ていて。守りたいものの為なら、進んで自分が前に出る事を選ぶだろう。ただ、その出方が違っただけ。その上困ったことに、ロシウの守りたいものの中には、たぶんシモンさんも入っている。
「困った二人よね?」
「困ったもんだな、総司令官殿も補佐官殿も!」
そう言って、何だか二人とも笑い出した。だって、そんな困った二人を、守りたいのが自分たちなのだから。そのためにギミーとダリーはここまで来たのだ。新政府直属の防衛隊にして、精鋭の中の精鋭、グラパール隊。都の安寧を守ること。それがひいては、二人の------あの日幼かった自分たちの、未来のために戦ってくれた二人の------笑顔につながると信じたから。
「守る方が、守られる方より弱っちくちゃ、しょうがないよな」
俺はもっともっと強くなるよ。パイロットスーツの胸をどん、と叩いて宣言するギミーの大げさな仕草にダリーが茶々を入れる。
「あら、それじゃあこのダリー特製の地獄の特訓プログラム、受けてみる?」
「えーやだよ、お前の射撃1000発避けとかだろ」
「文句言わなーい。付き合ってあげるんだから感謝しなさいよ」
「勘弁してくれよー」
「・・・勘弁といえば、ギミー、こんなところで油売ってて良かったの?」
「え?なにが?」
「グレンラガンを持ってきた総司令も総司令だけど、演習を許可しちゃったあなたをロシウが許してくれるとは思えないんだけど・・・・・・」
さーっとギミーの顔が青ざめる。
折しものタイミングで、かつかつと、こちらに向かういかにも固い足音。
「ギミー!良いところに居ましたね。そこを絶対に動かないように!いろいろと説明してもらいたいことがあります」
怒りを内に秘めた声。総司令へのお説教は終わったのだろう。というより、そのお説教でさらにヒートアップしているような・・・
「ダリー、助けろ!おまえだってグラパール隊の一員だろ?連帯責任!」
「なに言ってるのよ!シモンさんの色香に負けたのは自分でしょ?」
「・・・っ馬っ鹿、何だよそれ?!色香とか言うな!」
「図星ー」
「ちがうちがうちがう!」
ぎゃーぎゃーと言い合っている後ろに、ゆらりと人影が立つ。
「・・・・・・ふたりとも。仲が良いのはとても良いことです・・・・・・がっ!!」
肩を掴まれてそれぞれひっ、と息をのむ。もちろん、後ろに立っていたのは、口だけは笑みの形の(そして青筋の立ちそうな)、ロシウ補佐官その人で。
「ギミー!」
「はい!」
「何の件かわかってますね!詳しい説明を聞かせてもらいます。ダリー!」
「はい!」
「あなたは現場の目撃者として、補足説明してもらいます!では二人とも付いてくるように!」
「「はいぃ!!」」
くるりと踵を返して、長身の補佐官がまた足音高く歩き出す。二人一緒に引きずられるように後ろを付いていく、何だかそれも懐かしいような気がして。その先の恐怖は横に置いて、やっぱりこっそり笑い合った。
カミナシティは今日も平穏。
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えー、7年後ギミ・ダリのあまりの可愛さに突発で書いてしまいました。
気持ちギミシモ?で、ダリーはロシウ好きと思うよ!という妄想ですな。
期間限定グレンラガンのカミシモ(シモン総受が信条)テキスト垂れ流しブログです。
鉄は熱い内に打て!
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