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Posted by ふじみき - 2007.08.10,Fri

 

 

 

 まよなか、です。

 

 なにかごそごそというけはいを感じて、カミナくんはぼんやりと目をさましました。おへやはまっくらで、なにも見えません。それでもなにかが動くようなけはいがして、ねぼけた目をこらしてへやを見わたします。


 目がすこしなれてきて、ブタモグラくらいのちいさなかたまりがへやのまんなかにあるのがわかりました。いつもれいのつつみがおいてある場所です。見ているうちに、そのかたまりはゆっくり立ち上がると、へやのいりぐちの方へ歩き出したのです!

 

 「おい!まて!」

 

 とび起きながら、大きなこえを出しました。もちろん引きとめたかったからですが、小さなかげはびっくりぎょうてんして、とびあがるようにへやを走り出ます。へやのまん中には、いつものつつみがころがります。

 あいつだ!とおもったカミナくん、いそいでおうちをとびだします。村のきまりなんかどうでもいいと思いました。とにかく、あの小さなかげをつかまえたい、つかまえてお礼を言いたい、それだけです。

 

 小さなかげはあまりはやくは走れないようでした。ただ追いかけはじめたときに遅れをとってしまったので、けっこう放されてしまっています。かげは、どうやら、カミナくんのおうちとははんたいがわにある、穴ほりのげんばにむかっているようです。

 「待て!」とさけびたいのをおさえて、カミナくんも走ります。さけんだら村のみんなに聞こえてしまいます。

息をきらして穴ほりげんばに走りこむと、小さなかげは穴のひとつにとびこみました。カミナくんも負けじとその穴にとびこみます。

 穴はカミナくんが立って走るにはかなり小さいものでした。こしをかがめて追っていくのはほねが折れます。でも、そんなことを気にしているよゆうもありません。むりなたいせいでもできる限りはやく、カミナくんは穴をすすみます。

 ついに、穴の終点にたどりつきました。目はすっかりなれていますが、さすがに穴の中はくらすぎて、先にここにたどりついている小さいかげのかおは見えません。

 

 「だれだ?おまえ。ツラ見せろ!」

 

 走りどおしでおいかけていたせいで、言葉をえらぶきりょくもなく、ついらんぼうな言いかたをしてしまいます。ひいっ、というようなこえが聞こえて、ぱっ、と穴の中がまぶしく光りました。とつぜんの光にこんどはカミナくんの目がくらみます。

 

 「なにすんだ!この・・・」

 

 やろう、と言いかけながら、光った方を見ると、そこにいたのはカミナくんよりもずっと小さい男の子でした。光は、男の子がつけていた、穴ほり用のゴーグルから出ていたのです。光に目がなれると、かおも見えてきました。今にも泣きだしそうに目を見ひらいてふるえています。どこかで見たことがあるような気がしました。

 

 「おまえ、たしか・・・」

 「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 男の子はとつぜん、あたまを何度も下げてあやまります。まるでカミナくんになぐられでもするみたいに。そうされるとカミナくんも困ってしまいます。おちつけよ、とかたをたたこうとすると、つかまえられそうな動物の動きで、ひっ、とよけられてしまいました。

 

 「にげんな!おれは、べつに・・・その、おこりに来たわけじゃねえんだぞ?」

 

 カミナくんもひっしです。まず、ちゃんと話がしたいのに。お礼をいうために追いかけてきたのに、これではこちらがいじめているみたいです。

 おこらない、と聞いて、男の子もすこしきんちょうをゆるめたようでした。下げていたあたまをおそるおそるあげて、こちらをうかがいます。

 真ん丸の黒い目がぱちぱちとまばたきしています。男の子はだぶだぶのマントを着て、こしに大きなドリル(穴をほるきかいです)をぶら下げています。それに赤いゴーグル。

やっぱりそうです。カミナくんには見おぼえがありました。

 

「おまえ、シモン、だろ」

 

すんでのところで、穴ほりシモン、と言うのを止めました。

シモン、というなまえとその男の子のかおは、村ではゆうめいでした。村でいちばんだいじなしごと、それは村を広げるためのよこ穴ほりです。シモンというその男の子は、たしかまだ7歳。でも、だれよりもはやく、だれよりもせいかくによこ穴をほることができる、と村長さんはみんなに言いふらしていたのです。

村長さんがわざわざそんなことをみんなに言っていたのは、ほかの穴ほりのひとたちを、おとなもこどもも、もっと気合いを入れてはたらかせるためでした。こんな小さいこどもに負けるのか、と言ってみんなのおしりをたたくためでした。ごほうびのブタモグラのステーキも、これ見よがしにみんなの前でシモンにあげるのです。

 見せられる人たちはおもしろいわけがありません。穴ほり仕事場では、こどもはもちろん、時にはおとなまで、ことあるごとにシモンくんを仲間はずれにしたり、通りがかりにわるくちを言うことがあります。シモンくんは言い返すでもありません。ただただ下を向いて、もくもくと仕事をしているばかりでした。そんなふんいきがなんとなく村にも広がっていて、シモンくんは村をあるいているときでも、ときどきからかわれたりいじめられたりすることが多かったのです。「穴ほりシモン」、という呼び名は、シモンくんをからかうときにかならず使われるものでした。

 カミナくんは村長さんのところからもう飛び出てしまったので良くは知りませんでしたが、シモンくんのお父さんお母さんはじしんでなくなっている、と聞いたことがあります。

 それにしても、村のみんなまでシモンくんを悪くいうのがなんでなのか、カミナくんには良くわかりませんでした。やるべき仕事をして、それにみあったものをもらっていることの何がいけないのでしょう。

 名前を呼ばれたシモンくんは、びくりとして、また下を向きました。

 こういうところは、たしかにいらいらする、とカミナくんは思いました。目を見ようとしない人はカミナくんはあまりすきではありません。

 

 「上を向けぇ!シモン!」

 

 思わず荒い声をかけてしまいます。それから、どかっと座りこみました。とりあえずシモンくんの目の高さよりひくくなって、シモンくんがこわがらずに話せるように。

 またびくびくと顔を上げたシモンくんの目をじっと見つめて、ゆっくり話します。

 

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