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Posted by ふじみき - 2007.09.25,Tue

A hero is no braver than an ordinary man,
but he is braver five minutes longer.
           Ralph Waldo Emerson



 

 僕らの行く場所を僕らは知らない。説明を受けてはいたけれど、たぶん誰も良くわかっていなかったと思う。『十次元と十一次元の狭間』なんて、聞いたこともない。それを伝えてくれたギミー隊長もダリーさんも、自分たちもわからないし、わからなくても良いんだと笑って言った。わからなくても、僕らのやることは変わらないのだから、と。

僕ら、スペースグラパール隊の義務はたったひとつ。地球を、人類を脅かす脅威の排除。


 

 

宇宙で戦うことなど想像もしていなかった、数ヶ月前までは。そんな僕らが、アークグレンの格納庫で宇宙への出立を待っている。

ここに皆で待機するのは二度目だ。記憶に新しい、月落下に伴う地球離脱作戦の時以来。

アンチスパイラル。ムガン。キョムガン。クウムガン。

 

カミナシティや他の地上居住区の防衛を担う、それが僕たちの使命だった。獣人との和睦はかなり進んでいたけれども、未だに人間と相容れることのできない者たちは相当数居たし、人間の中にも獣人の捨てていったガンメンを乗り回して略奪行為を行うような者が居た。地上への移民政策を嫌い、反抗し続ける人間達も。

彼らを取り締まり、捕縛連行する事。それが最大の目的であり、力ずくでねじ伏せるような戦闘行為は極力避けるよう指導されてきた。

 

スペース仕様に改造されたグラパール機がずらりと並ぶ。天井も見えないほど広い、アークグレンの格納庫は圧巻だ。整備用クレーンマシンが忙しく上下している。生身ではとうてい行き来できない広さだ。これから向かう、カテドラルテラという戦艦は、このダイガンの数百倍の大きさだという。とすると、格納スペースもこれ以上ということだ。想像が追いつかない。

格納庫の中央部に、僕ら隊員達は思い思いに集まっていた。隊長とダリーさんは、階上のブリッジで指示を受けているらしい。急ピッチで作業を進める整備員達の怒鳴り声や金属音が、飛び交って反響し、おおおおん、という声のような音になって、隙間無く僕たちを包み込む。否応のない緊張感。

 

僕たちは、これから、何かをねじ伏せてたたき落とすための戦いに出る。

 

見渡す、仲間の顔。僕らは隊ごとに分かれ、さらにチームで分割されている。グラパール隊員全員の顔や名前を覚えているわけではない。覚えられる規模ではない。それでも。見知った顔が何人も居なくなった事はわかる。先の戦いで、隊員は半数近くが戦闘不能になり、その多くは・・・・・・亡くなった。

一番最初の犠牲者の名前は覚えている。コーザ。ムガンによるビーム攻撃を受けて。

彼の機体と彼自身が解析にかけられるのを、僕は見た。

あの時、僕はグラパールに乗る事の現実を初めて目の当たりにした、と、思う。

僕たちは己を顧みず街を守り、人々を守るための人員であり、手段に過ぎないのだ、と。

それは入隊の時にも繰り返し教わっていた事だったけれど、本当の戦場に出たこともなかった僕らにその言葉の意味が浸透していたはずもなく。立て続けに起こった地上でのムガン戦、そして宇宙での戦いを経て、ようやく心のどこかが理解し始めたのだ。

使命感は、ある。そして、どのみち僕らは追い込まれているのだということもわかっている。総司令の指揮するこの戦いに勝たなければ、僕らに、地球に、未来はない。戦いに出ようと出まいと。

ただ座り込んでいる者。シミュレーションに余念の無い者。軽口をたたきあっている者。それでも、みんないつもよりずっと言葉少なく。僕はぼんやりと、自分の愛機が磨かれるのを眺める。この機体が、コーザや宇宙で打ち落とされた仲間たちのように、貫かれる事があるのだろうか。

相手をたたき落とす事、は、自分が落とされる事、の可能性とつながる。そんな戦いのための号令を。

僕らは静かに待っていた。

 

 

ぷしゅん、と空圧式のドア開閉音が聞こえた。

 

「ギミー隊長!」

 

誰かが声を上げる。入ってきたのは、グラパール屈指のエースパイロット。赤毛の隊長、ギミーさん。階上の会議が終わったのだろう。双子でこちらは射撃の名手である、ダリーさんも一緒に居る。立ち上がってぱらぱらと敬礼する僕らに、なぜかギミーさんは、焦ったように、まあまあ!と手を振った。隣のダリーさんも、何だか苦笑している。隊長に敬礼するのは常識で、いつもは敬礼でびしっと返してくれるはずなのに。僕らがいぶかしそうにしていると、参ったなあ、とつぶやいて、頭をかいた。見かねたダリーさんが、いつもどおりにすればいいじゃない、みんな困ってるわよ、と声をかけている。何かあったんだろうか。

 

「おー、「あの」ギミーが隊長さまとはねぇ」

「えらくなったもんだな!おい!」

 

びくっと飛び上がった、隊長の後ろから、威勢の良い声が聞こえてくる。同じドアを抜けて来る、いくつかの影。あれはもしかして、新政府の・・・・・・

 

「からかわないで下さいよ!オレが隊長になったのもう随分前の話でしょ」

 

みんな知ってた話じゃないですか!後ろから来る人達に向かって、ムキになって隊長が怒鳴る。怒るな怒るな、と手を振りながら一番前に居た人が足早にやってきて、隊長の隣に立った。金髪をつんつんに立てて、精悍な眉が特徴的な、その人は、あまりにも有名な。

 

「キタン法務局長・・・!」

「おう!」

 

隊員達がざわめく。地上解放軍、テッペリン攻略戦の勇士にして、新政府の法務局長。そして、先の宇宙戦でも、旧式ガンメンキングキタンを操って、勝利に貢献した人。ざわめくのも当然だ。はっとして、僕らは思いだしたように最敬礼の姿勢をとった。普段なら言葉も交わせない人が目の前に現れて、当然の義務を忘れてしまっていたのだ。

 

「おいおい、まあそう固くなんなよ」

 

ニヤリとして、その手が手近な隊員の背中をポン、と叩く。

ドアの方からは大きな笑い声が響いてきて、びっくりするほど大柄な双子がのしのしと現れた。

 

ジョーガン・バリンボー人民局長だ・・・!!

 

みんな開いた口がふさがらない。何しろ次々と、教科書でしか間近にお目にかかれない、革命の英雄達がここに入ってきているのだ。

切り込み隊長と謳われたキッドさん。寡黙な剣士、マッケンさん。俊足の貴公子、アイラックさん。トリックスター、ゾーシィさん。(この辺りの呼び名は、彼らの乗るガンメンの名前と併せ、全て歴史の時間に暗記させられたものだ)

新政府の要職者である彼らは、式典や市庁舎の中で見かけることはあったけれど、言葉を交わす事などとてもではないがしたことがない。まれにグラパールの演習場に来て、隊長やダリーさんに軽く声をかけるのを見たことがあるくらいで。

ずらり、と並んだ英雄達。緊張でかちかちになっている僕らとは対照的に、リラックスした様子で辺りをきょろきょろ見回している。くわえ煙草のゾーシィさんが、ギミー隊長の側によって僕らを見渡した。

 

「俺ら、もしかして人気あんのかぁ?」

「何言ってるんですか。一応みなさん建国の英雄で通ってるんですからあたりまえです!」

「へえーそんなもんかね」

「それに、この間の宇宙戦は僕だって感心しました」

「お、いっちょまえの口ききやがって」

 

ぐりぐりと、隊長の赤毛がかき回される。手つきは乱暴だけれど表情は意外に柔らかく、どうやらそれが照れ隠しなのだとわかった。やめてくださいよ、と隊長が哀れな声を出す。僕らの前では一応鬼隊長のギミーさんも、この人たちにかかると小さな子供のようだ。

それもそうだ、ギミーさんもダリーさんも7年前のテッペリン攻略戦に参加していたんだから。本人達が余り言わないから忘れがちな事実。僕たちは時々その時の話をねだるのだけれど、オレらはただダイグレンに乗ってただけだから、と話したがらない。

 

「全く、ちっせえ餓鬼だったくせによ。いまや一部隊率いるエース様だもんな!」

「そら、ダリーの胸も育つはずだ!」

 

くせっ毛が印象的なキッドさんが割り込んできて、肩を叩いて隊長を茶化す。それを受けたゾーシィさんが恐ろしい発言をして、伝説の大グレン団は大笑いした。

転じてグラパール隊員にはそれどころでない動揺が走っていた。ダリーさんの反応が気になる。僕らにとってダリーさんは、頼れるパイロットで、かつ気高く、触れがたい雰囲気のある人なのだ。ひそかに隊員内ファンクラブがあるほどである。そのダリーさんに、そんな事言うなんて・・・・・・

 

「ゾーシィさんっ、セクハラですよ?」

 

氷の様な声が飛ぶかと、一同固唾をのんでいたのに。

声にはもちろん怒りが混じっている。が、どちらかというと親戚のおじさんに茶化されて、しょうがないな、というようなニュアンスに近くて。頬をふくらませてはいるけれども、本気で怒ってはいない。こんな表情は、ちょっと新鮮だ。思わずじっと見つめていた、ら。

 

「・・・お嬢さん、宇宙に行くまでのひとときを、俺にくれないかな?」

 

突然僕の脇で声がしてぎょっとする。見れば、長髪をかきあげたアイラックさんが、隣にいる女子隊員の手を臆面もなく握っていた。いつ来たのだろう。随分遠くの位置にいたと思ったのに、恐ろしい早業。黒髪をさらりと流すこの人は、近くでも見劣りのしない、いわゆるいい男、という顔で。多分こんな状況でなかったら彼女も頬を染めて返事をしたところだろうけれど、いかんせん突然すぎる。はっきりいって、怯えている。

 

「おいお前らぁ!いつまでも脱線してんじゃねぇ!」

 

 

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