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Posted by ふじみき - 2007.09.25,Tue


 「おいお前らぁ!いつまでも脱線してんじゃねぇ!」

 

さすがに見かねたのだろう、キタンさんが一喝を落とした。さすが法務局長。もっとも言われたみなさんは、はいはい、という感じで聞き流しているようだが。それでもニヤニヤしながら彼の周りに集結した。

殺風景な格納庫の真ん中に、ずらりと並ぶ大グレン団ガンメン乗り。この戦いのために新調された、制定のパイロットスーツの星がまぶしい。



 
 僕たちも隊長の指示で、彼らの前に整列させられた。いったいこれから何が起こるのだろう。

改めて一歩前にでて、キタンさんがコホンと咳払いする。

 

「まあ、何だ。俺たちはもう新政府での職は退いてる。とりあえずそんなにかしこまらないでくれ」

 

初耳だった。ざわつく隊列を見渡して、キタンさんは続ける。

 

「俺もこいつらもただのガンメン乗り、お前らと同じってわけだ」

「おっと、経験の差はあるけどな」

「ブランクがなげーだろ。腕なまってんじゃねえのか?」

「なまってねえ!ツインボークンは無敵だ!」

「そうだ!無敵だ!」

「うるっさいな、おめえらはぁ!話そらすな!」

 

振り向きざま何発か拳をふるっていたけれど、全部避けられている。絶妙なタイミングだ。こう言っては申し訳ないのだけれど、出来のいいコントを見ているようで、僕らの間にさざ波のような笑いが起きる。

話の腰を折られたキタンさんが向き直って、もう一度威儀を正した。

 

「お前達は、スペースグラパール、俺たちはスペースガンメン。乗る物は違うけどな、同じ戦場で戦うんだ」

 

だからな。俺らは、お前らの顔をちゃんと見ておきたかったんだよ。

 

「人間ってなぁ単純なもんだ。見たことも話したこともないやつより、ちっとでも顔知ってるやつの方に感情が動く」

 

お前らもわかるだろう?反政府ゲリラの奴らと戦うのと、ムガンの野郎と戦うのじゃ心持ちが違うってのは。味方の場合だって同じだ。共闘するやつの顔知ってるか知らないかで、戦いの士気だって変わる。

 

「ま、そんな固ぇことだけじゃねぇやな」

 

ゾーシィさんが、加えていた煙草を飛ばして、かかかと笑う。

 

「俺たちゃ、同じ目的でシモンの旗印の下に居るんだ。つまり、お前らも大グレン団の仲間だってこと」

 

お前らに政府直属スペースグラパール隊、って肩書きがあったとしても、だ。

 

「仲間の顔もしらねえ、なんておかしいだろ?」

「そうそう。だから俺らはお前らの顔を覚えに来たんだ。もっとも馬鹿だから、全員の顔と名前を一致させるのなんて無理だけどな」

「勝手に人のことまで馬鹿にしないでほしいね、キッド。少なくとも俺は、ここのレディたちの顔は全て覚えたよ」

「女だけかよ!」

「脱線すんなっつってんだろ!最後まで話させろぃ!」

 

叫んだキタンさんは今度は後ろ回し蹴りを繰り出していたけれど、やっぱりみんなに避けられて、最後はジョーガンさんの手で止められていた。そろそろ見ていて微笑ましくなってくる。本当に、この人達は仲が良いんだ。

僕らが笑いをこらえているのを見て、ギミー隊長がやれやれ、という顔をしている。ダリーさんは苦笑しながら、キタンさんの肩をたたいて続きを促した。我に返ったキタンさんが、一回りも小さいダリーさんに恐縮して謝っている図は何とも言えない。

整備があらかた終わったのだろうか。各種調整用マシンの動く音が、徐々に小さくなってきていた。覚醒の時を待って林立するグラパール機の真ん中で、大きくジェスチャーをしながらキタンさんは続ける。

 

「・・・んなわけだから。俺たちは、いま目の前にいるお前らの顔を忘れない。斬ったはったで命やりとりする戦場に居たって、絶対に」

 

そうやって、大グレン団は戦ってきた。そうやって、勝ってきた。

ジョーガンさんバリンボーさんが大きくうんうんと頷く。キッドさんとアイラックさんは肩を組んでいる。ゾーシィさんは二本目の煙草を口にくわえて、にやりと僕らに笑いかけた。石のように動かなかったマッケンさんの口の端が少しだけ持ち上がる。

 

「お前らも、ここで俺らの顔をしっっかり目に焼き付けとけ!

・・・・・・そして忘れんな。俺たちは必ずお前らと一緒に居る。一緒に戦ってる」

 

俺たちは仲間だ。この年で、青臭ぇと思うかもしんねえけどな。

 

「アンチスパイラルだか何だかしらねえが、俺らとお前ら、大グレン団の力、見せてやろうじゃねえか!」

 

キタンさんが思いっきり突き上げた、太い拳は天を指していて。僕らはしばし、ぽかんとそれを見つめた。


  ・・・・・・この時本当に不思議だったのだけれど。

言いようのない気持ちがふつふつとわき起こってくるのを、僕は確かに感じていた。

漠然とした不安。ぬぐいきれなかった恐怖。どことなく現実感のなかった戦いへの意識。そういうものが、なんだか全てひっくるめられて。熱い塊の中に押し込められて、喉もとにせりあがってくる。

一拍おいて、僕らの口から一様に同じ雄叫びが上がった。それは心地よい喧噪で。反響する声の波に包まれて、ああみんな同じ気持ちだったんだな、と何だか胸が熱くなった。

キタンさんと同じように、グレン団の人達もみな拳を突き上げている。その、心底嬉しそうな顔。

僕は、僕らは、決してその顔を忘れないんだ、と思った。たとえ宇宙の彼方でも、この人達と戦うならば、この顔を思い出すならば。勇気を奮い起こすことができる。

 

そう、信じた。

 

 

 

 

 

超銀河ダイグレンが揺れている。

ブリッジの真下にある部屋に集められた僕らは、状況を中空に浮かぶモニターでしか知ることはできない。宇宙に出現した海の中へ、艦が引き込まれているらしい。宇宙圧の影響が最も少ない場所へ僕らを誘導して、隊長とダリーさんは行ってしまった。引き留めることは、できなかった。

 

僕たちは、じっと待っている。僕たちがここに居る、その事を噛みしめながら。忘れない顔を心に思い描きながら。

教科書に載っているんじゃない、本当のグレン団の顔。不器用に、でも温かい手で僕らの不安をぬぐって、僕らを包んで、押し上げようとしてくれた、あの時の笑顔を。

今、僕らにできることは何もない。ただシモン総司令を、大グレン団を、グレンラガンを、信じて、ここに居ることだけだ。

どこかでまた隔壁が宇宙に破られる音がした。みしり、と艦のそこここが悲鳴を上げているのが伝わる。

できることは何もない、けれど。絶望的な状況、なのかもしれないけれど。

生きて生きて生きて帰る。僕らに託されたのは、きっとそれだけ。何もできないくせに、強くそう願う。

胸に刻み込んだ、あの顔を。言葉を。決して宇宙に散らさないために。彼らを決して忘れないと誓った、心だけを頼りに。この心だけは、生きて生きて、地球に持ち帰る。


 誰もが動かず。立ちつくしたまま。どんなに強い揺れが来ても、声もあげずに僕らは。


 ただ、信じた。胸の中の忘れない顔と、彼らが信じたその道を。
 信じることが、なにかのしるしになるかのように。
 信じ続けた。
 

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