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Posted by ふじみき - 2007.07.16,Mon

3.

 

 

 

やはりとは、思ったけれど。

一応確認をしに来ては見たが。シモンの部屋に、主は居なかった。あつらえてある寝台も、事務机にも、今日誰かが帰ってきた形跡が見当たらない。夜の会議の後、疲れも取らずいったいどこへ行ったのだろう。

ニアさんの聞いたとおり、見回りに出ているのだろうか?

 行為自体は賞賛すべきことだとは思う。だがもしそれが本当に毎夜の事なのだとしたら、誰かが止めてしかるべきだろう。リーダーが体を壊してしまっては元も子もないではないか。

 そう考え始めて、ふっと我に返る。ああ、自分も。いつからそういう考え方が染みついたんだろう。

 

 


 部屋を出て足早に歩く。ニアがシモンを見たという場所を、記憶を辿って思い出していく。ブリッジを通って西側。地上に一番近い区画。


 たどり着いてみれば、滅多に来ることのないところだった。重装用の武器庫と雑用に使う道具置き場の並ぶ場所。多分、他の団員たちもあまり足を運ぶまい。


 こんな所まで探しに来たのか。


 今更ながら、彼女のシモンへの強い気持ちを思わざるを得ない。艦内中を必死で探したのだろう。でなければこんな区画に足を入れることなどないはずだ。

薄暗い廊下を足下灯の明かりを頼りに、ロシウは慎重に歩く。普段人の入らない場所であるから、電気も極力落としてあるのだ。ぼんやりとした視界に、長く続く人気のない廊下。不思議と足音も響かない。こんなところに、本当にシモンさんは居たのだろうか?歩けば歩くほど疑問に襲われる。戻って、階上を探してみた方が良いかも知れない。

確かこの先に、もう一つ階段があった気がする。そう思って歩みを進めた時。前方に明るい筋が見えた。ことさら殺風景な内装の廊下に、一筋の光が射している。よくよく見れば、どうもそれは倉庫のドアらしく、おそらくきちんとしまっていない為に、中の光が漏れだしているようだった。

不用心じゃないか。ロシウは形の良い眉をひそめる。思い出す限りでは、その倉庫は(幸い)武器庫ではないようだった。あるいはこんなことがあるから、シモンさんは見回りに出ているのかも知れない。

艦全体が弛んできているんだろうか。それにしても、ここは誰の管理だったかな。そう思いつつ、まずはドアを閉めようと足を速める。

と。

 

------・・・・・・っ・・・っっつ・・・

 

声、だ。人の。

ロシウはとっさに身構える。小さな声。目をこらして周囲を睨みつけるが、人の影はない。

また声がした。今度は出所が分かった。開いている、そのドアの隙間からだ。

慎重に、ごく慎重にドアに近づく。そこは古くなった雑用品を置いておくような倉庫-----どちらかというと物置に近い場所のようだった。まだ警戒は解かず、金属のドアに体を寄せる。スライド式のドアは、古びたデッキモップの柄を噛んでいた。何かの拍子に挟まったのだろう。このせいでドアが正常に閉まらなかったらしい。

身を寄せてしまうと、倉庫の内部の声は一段と良く聞こえるようになった。

が。これは。

言葉というより、意味のない喘ぎ。声というより、息づかい。絶え間なく細い隙間から漏れてくる・・・・・・二人分の。

さすがに、ロシウにも、わかってしまった。この声がどんな性質のものか。
 明らかにこれは・・・・・・情事の声、だ。

 

------いいいいいいったいどこの馬鹿者達なんだ!こんなところを使うなんて!!

 

17ともなればさすがに逃げ出すほど動揺はしないが・・・・・・額に青筋が立ちそうだ。

 

------破廉恥極まりない!!

 

堅物と言われる彼は、実際情事について疎いとはいえ、人並みの知識はある。その行為自体にどうこう文句をつけるつもりはない。ないが、そもそも場所が良くない。

この場に踏み込むべきか?
 とはいえ、それは自分には難しそうだった。実際に目の前にしてしまったら、うろたえずにいられる自信はない。はっきり言ってない。現に今、こうして怒りが先立ってはいるが、それ以上の狼狽が彼の中で渦巻いている事は否定すべくもない。

とにかく、と出てもいない汗を額からぬぐう仕草で気を落ち着かせる。

倉庫は「そんなこと」に使う場所じゃない!少なくとも明日、それとなく一言言わなければ気が済みそうにない。

 

------その為にも、顔だけは覚えておかなくては。

 

正直・・・・・・痛いほど胸が鼓動していた。これでは透き見ではないか?そう言う声が頭に響く。それでも。

決して好奇心ではない、と言い聞かせ。音の立たぬよう、静かに、だが思い切ってドアの中へ目を走らせる。


 その瞬間。


 ロシウは、目を見開いて硬直した。

 

 


 中は灯りが煌々とついていた。思ったよりも明るく。
 そして、その下で蠢いている白い肢体がまず目に飛び込む。

無駄な肉のない、細い足、に、もう一つ、着衣したままのごつい足が重なって見える。野太い手に、がしりと抱え込まれている真っ直ぐな腰。ぐいぐいと揺すられている、しなやかな身体。その身体から伸びる手が壁に突っ張って、くくっ、と背をそらす。その顔には目隠しをされていて。

ああでもその濃紺の髪、一段と鋭くなった横顔の線。何よりも、先ほどよりさらに鮮明に上げられた声。紛うかたなく。

 

------シモンさん・・・・・・!!!

 

なんでどうして、いったいなにが。

一瞬にして頭に昇っていたはずの血が引いていく。予想に違う光景に、さっきまでの狼狽どころか思考まで止まってしまう。その目の前で。

 

「へへへ・・・・・・気持ち良いのか・・・?」

 

太い手の持ち主が被さってきて、白い背中を隠した。

見えたのは、汗にまみれ、にやけた横顔。地上に長く居たことで、赤さびたような肌色の。その顔はすぐに思い出すことができた。つい一週間ほど前に、ガンメン乗りとして入団した男だ。操縦の経験が豊富だということで、多少性質の悪そうな所にも目をつむって入団させたと聞いた。確かに素行が悪く、早々にささいな揉め事を起こしていたので、顔だけは覚えていたのだ。

 

呆けている場合じゃない!助けなくては!

 

はっと我に返ってドアに手をかける。

と、ほぼ同時に。

 

「スガリの奴が自慢するわけだ・・・・・・噂通り・・・っ良い身体じゃねぇかっ・・・・・・!」

 

日焼けした顔を歪めながら、男がシモンの背中につぶやくのが聞こえた。今にも押さんとしていた、開閉ボタンの上の手が止まる。

自慢・・・・・・?噂通り・・・・・・?!

また、混乱する。

さっきまでは、目隠しを「されている」のだと思って。無理無体に犯されているのだと思って。

いた、けれど。

怒りと困惑と、そしてまた違う何かと・・・・・・全てがロシウの中でぐちゃぐちゃになって、頭が割れそうだ。

そんな彼の前で。事ばかりが無情に、ただ無情に進んで行き。

 

『・・・も・・・・・・頼むから・・・っ、はやくぅ・・・・・・っ』

 

聞いたこともない声でシモンが鳴いて。

いつまでも笑っていた男が、だらしなく弛緩して、果てて。

 

 

いつの間にか自分が膝をついていることにさえ、その時ロシウは、気付くこともできなかった。




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もう少し続きます!いろいろぬるくてすいません!

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