1.<憂鬱な月曜日も 今では好きになったよ。>
11月に入って、朝の気温もかなり涼しい。学ランもそれほど億劫でなくなってくる、男子学生には良い季節だ。
「アニキ、はいお弁当」
「おぅ、ありがとよ!」
身支度の終わった同室者に渡すのは、今日も自信のつくりたて。3つ年上の彼は------カミナは、真っ赤な布で包んだ弁当箱を受け取って、景気よく礼を返してくれる。
お弁当を作る仕事を始めて、一ヶ月半くらい。今のところ文句を言われたことは一度もない。まあアニキは好き嫌いがなさそうだから、と思いながらも毎日、返ってくるお弁当箱が空っぽになっているか、どきどきしながらシモンは開けている。目下全戦全勝!そのたびにガッツポーズをしてるなんて、恥ずかしくて言えないけれど。
弁当箱にまだ残る温もりを確かめるように撫でて。教科書は入っていたためしのない鞄に、カミナはこれだけは大事に入れてくれる。開けたとき中身が寄っているのは嫌だ、といつか言っていた。意外と神経質なんだよな、と内心面白く思ってしまう。
「今日のメインディッシュは何だよ、料理長?」
「へへ、内緒だよ」
やっぱり開けたときのお楽しみにしたいから。教えろよー、と言われてもこれだけは言わない。そういう楽しみも必要だと思うのだ。
むう、と言うような顔をして。大した事じゃないのに、こだわって知りたがる。ずっと先輩なのに、時々子供みたいで何だかかわいい。ほら、そんな事してる内に遅れちゃうよ、と肩を軽く叩こうとした、ら。
さっ、と大きな右手が伸びてきて。中途半端に伸ばしたシモンの手はぱっ、と掴まれ。驚く暇も与えず、その手は鼻先へ持って行かれる。
う・・・わ・・・っ!!
「ふーん・・・この匂いは・・」
「あ、にき、やめてよーっ・・くすぐったいってば!犬じゃないんだから!」
「お、わかった!煮込みハンバーグ!でかいやつ!」
「・・・何ででかいとかわかるんだよ・・・」
確かに、シモンが作るハンバーグは基本的に大きい。自分が良く食べるからというのもあるけれど、カミナにもたくさん食べさせてあげたいと思うからだ。カミナの好みの一番は、肉、肉、肉。それじゃ栄養が偏るから、刻み野菜とキノコをいっぱい混ぜてある。この味が挽肉だけのより案外うけて、大好物になったらしい。うん、秘密は椎茸にあると思うんだ。
じゃなくて。
顔の方に血が上ってきているのがわかる。カミナのこういう行動には、まだ免疫がない。もう手は放してくれてるし、自分の好きな物が入ってるとわかって、にかっと笑った顔を見るのは嬉しいけれど。こんな事は日常茶飯事で、何かと良く首を掴まれたり肩を抱かれたりしがちで。
・・・どうなんだろう、これぐらいの事は他人同士でも普通にあることなのかな。それとも兄弟なら?
早くに家族を亡くしているシモンには、そういうのが何だかくすぐったくて、困ってしまうのだ。
「どうした?シモン」
反応が悪いのに気づいたんだろう。ぽん、と頭に手を乗せられて、のぞき込まれた。こうもぽんぽんされるのは、身長差がある所為もあるんだろう。それぐらいこの仕草はしょっちゅうで。
「どうもしない。それより、アニキ早く行かないと遅れるよ」
高等部の始まりは中等部のそれよりも少しだけ早いと聞いている。だとすると、そろそろ寮を出ないと、全速力で走る羽目になるだろう。それを見越してお弁当を渡しているのだ。
促されたカミナは、行ってくるぜ、と小さな額に拳をこつんとあてる。
「今日は夜中まで会えねーな」
「バイト?がんばってね!」
この学校を出る前に、学費を全額理事長に返すと言っているカミナは、毎日のように放課後はアルバイトを入れている。時には夜中までかかるような仕事をしていることもあった。同じ志を持つ自分としては、そんなカミナの姿勢が羨ましい。早く高校に上がって稼げるようになりたい。
尊敬で目をきらきらさせる弟分に、カミナの口元が弛む。見上げる瞳は、全くもって可愛い。どうしてそんなに真っ直ぐ見るかな。
ふざけ半分、俺が帰って来なくても寂しがるんじゃねーぞ、と言ってやると、子供あつかいしないでよ!と返ってくる。面白いくらいに予想通りの答えが返ってくるから。こいつといると飽きないんだ。見送られるのすら楽しくて。
そんな顔をひきしめ、もうちょっといじってやりたい気持ちを押し殺して。んじゃ、行ってくるぜ!ひらりと身を翻して、カミナは廊下を駆けていく。朝の光を受ける、大きな背中が遠ざかって。シモンはその後ろ姿に、「いってらっしゃい!」と寮内を騒がせない程度の声を出した。
「お~月曜日から元気の良いこって」
「あ、キタンさん、おはようございます」
キタンで良いっての。ひらひらと手を振って、高等部寮長は部屋から出てきた。いつもつんつんに立てている前髪が、寝癖ですっかりへたれている。大あくびをかみ殺してシャツを引っかけ、おふぁよう、と気のない声を出した。
寮長のキタンは、カミナの良き喧嘩友達らしい。会えば何かと張り合っているが、お互い認め合ってもいるようだ。それに・・・とシモンは思う。中等部生の自分などにも、何かと気をつかって声をかけて、親切にしてくれる。けっこう器は大きいんじゃないだろうか。何というか、カミナは「アニキ」だけれど、キタンは実感のある「お兄ちゃん」という感じなのだ。
「あー、シモン。お前もごくろうさん」
ねぎらいなのか、何故か頭を撫でられた。高等部側の寮にたった一人の中等部生。そのせいか、カミナだけではない、いろんな人に子供扱いされがちだ。やっぱりこの身長がいけないのかな。中学2年生にしては、小さい方だとは思う。でもロシウだって背の高さは同じくらいなのだけれど。
ふぁあ、とまた一つあくびをしながら、キタンは頭をかいている。
「キタンさんは、まだ行かなくても大丈夫なんですか?」
「んん?まあウチの担任はあんまりうるさくないからな。出席取るのに間に合えば問題ねぇんだ」
ただなあ。くたくたのシャツの袖に腕を通しながら、首をひねる。それはカミナだって同じはずだったのだが。実は、高等部は登校に関しては割合甘く、よほど真面目な者か、日直にでも当たった者以外は中等部生より朝が遅いくらいだ。特に週明けなどというのは、ただでも身体を動かすのが億劫なのに。
「カミナのやつ、最近やけにはりきってんじゃねーか」
「?アニキって、いつもあんなじゃないですか?」
カミナは寝起きが良い、というわけではない。朝起こすのはシモンの役目である。というか頼まれたのだ。
シモンは元々朝に強い。それに弁当作りという仕事があるので、登校時刻よりも遙かに早く目を覚ましている。目覚まし時計なんかよりよっぽど正確で信頼できるから、と言われて、二つ返事で引き受けたのだ。
とはいえ、カミナを起こすのにはそれなりに体力が必要で。大柄な同室者は、揺さぶってもなかなか目を開こうとしない。寝ぼけて引き寄せられて、抱き枕代わりにされることもしばしばだ。
これを抜け出すのが、また一苦労で。カミナはたいがい上半身裸で寝ている。抱き込まれると、生身の温かさがじわり、と伝わってきて・・・何だか振りほどくことができない。
離して、と言ってもまるで聞こえないらしい。今日だって逆にぎゅうと引き寄せられて。身体に回る腕も、自然顔を寄せる事になる胸部も、男として羨ましいくらい引き締まっている。その熱に包まれてしまえば、ほっ、と落ち着くような気持ちと、恥ずかしいような気持ちとが綯い交ぜになって、硬直してしまうのだ、毎回。
そこをなんとか、名前を呼んで、ひとしきり腕の中で暴れて。そうしてようよう起きてくれる、困った人。一度遅刻しそうになったから、起こす時間を見越して、早めに起こすように心がけているのだが。
それでも起きてしまえば、起こす前が嘘だったかのように元気なのがカミナで。
寝起きのぼんやりした感じなど微塵もなく、テンションもいつも通り。基本的に毎朝、ああやって元気よく登校しているイメージがある。
「いや、ちょっと前まではもっとダルそうにしてたんだがなぁ。寝たい時は寝る!とか宣言して、遅刻常習犯で」
月曜日なんて、学校に行かなくて当然、ぐらいに思ってる感じだったけどな。
カミナの事情はキタンも知っている。用立ててもらった学費を全額自力で返そうなんてなぁ漢じゃねぇか!そう思っているから、寮の門限を越えたアルバイトも大目に見ていたし、寮長という手前、口ではうるさく言っても、遅刻欠席もある程度までは見逃してきた。カミナが夜中まで働いているのが原因だと知っていたからだ。
そのカミナが。毎朝時間通りに起きて、何が楽しいのか中等部生より早く登校していく。不思議なこともあるものだ。心境の変化、なんつー柄でもないと思うんだが・・・・・・
心境の、変化。
傍らで不思議そうな顔をしている中学生をちらりと見やる。最近カミナにあった変化といえば、シモンと同室になったことぐらいだ。
本人の強い希望と、たまたま部屋が空いていた事が重なって、これまでカミナは一人で部屋を使っていた。(基本的に一人で部屋を使う権利を持っているのは寮長だけである)そこに、突然同室者ができたのだ。相手は同期どころか3年も下の中学生。大変化といえば大変化なわけで。
正直なところ、カミナは荒れるのではないかと思っていた。この組み合わせが決まったときには。二人部屋がうざったいと文句を言うようなヤツが、年下(言ってしまえばガキだ)と同室でうまくやっていけるとは思えなかった。早晩、カミナかシモンのどちらかから、部屋替えの希望がでるだろうと踏んでいたのだが。
どういうわけだかうまくいっている、この二人。気がつけば、カミナは自分をアニキと呼ばせ、シモンも喜々としてそれに従っている、ようだ。どこで歯車がかみ合うかわかったものではない。
こちらを見ているのに気づいて、シモンがキタンを振り仰ぐ。朝日にちょっと眇めた真ん丸の目。ついまた頭にぽん、と手を乗せてしまった。ちょうど良い高さにあるので、弄りたくなるのだ。
「お前のせい、なのかねえ・・・」
無意識にくしゃくしゃと濃紺の髪を撫でる。子供扱いされているようで嫌なのか、不満げな視線を返された。こういうところが、シモンは他の高等部生にも気に入られているのだ。昨今の中学生にしては、生意気な所がなく、反応も素直。多少気弱で、線の細いところはあるが、根が真面目で何事にも一生懸命なので微笑ましい。おかげで高等部寮においては、良い意味で良く弄られている。カミナもその一人ではあるのだが。
見上げた壁の時計が登校時刻を指していて、シモンが慌てて跳ね上がる。
「あ、キタンさん、オレそろそろ行かなくちゃ」
「おお、そうだな。俺も出る」
それじゃ、また!
ぺこり、と頭を下げて、部屋に下がる元気な後ろ姿。寮内も登校するために部屋を出てきた学生達の声で、少しずつ騒がしくなってきていた。
・・・まあ、年下が居ると兄貴ぶって良いとこ見せたくなるのかもしれねえな。
見送って、何となくそう思う。妹3人を抱える長兄としては、その気持ちはわからないでもなく。何にせよ、寮生が良い傾向にあるのは寮長としてはありがたい。
バタバタ音がして、見やった先の廊下には走っていく学生たちが見える。
「おらぁ!廊下走るんじゃねぇ!」
手を上げて怒鳴ると、黄色い髪が振り返って舌を出した。キッドめ。
てめえ、外出禁止にすっぞ!と叫ぶのも日常茶飯事。寮長も忙しい、朝の始まりだった。
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最終回直前にパラレルを書く心意気!現実逃避ですね・・・
タイトルはス/キマ/スイ/ッチの曲名から。
歌詞を兄貴視点でベースにしてます。腐女子の妄想力は無限大だから!
歌詞はこちら→月見ヶ丘
なんかシモンが新妻しちゃってていいですねー!!
もお、声はちゃんと脳内でアニメ声優に変換されてますんで、たまんなくいい!!
あー!パラレル!もっと読みたい!
しかも、月見ヶ丘!かわいいんですよね!続きぜひ!お願いします!
毎度の駄文なコメに時間を割いていただきすみませぬです(>v<)
前夜祭な感じにわくわくでおじゃましに来てしまいましたσ(^v^;)す、すみませ‥!
グラパール隊員の話、涙で後半がにじんでしまいました(;_;)何故ギミー&ダリー以外の隊員が出てこないのか話数や時間帯や他大人の事情があるんだろうなあですが、本編で語られないエピソードも天元突破て‥すごすぎデス!
がしかし!私としては、1、2部でのロシウをもう少し‥略(^^;)
お返事のロシウの回避率~は2部での休憩1分でしょか(*>v<)思えばシモンの成長に感慨がですが、決戦中で必死なロシウなのに?%E:648%#ホましさが込み上げてしまったのは私だけ‥でしょか(@v@;)汗
今だから私も蛇足してしまいますが、
カードゲームのCMのフィギュアは見たいけど詳しく見ると大人買いしそうなのでスローできませ(〃_ _)σ∥
あと螺旋力の光に浮かぶ艦長が魔女っ娘に見えて仕方ないデス。‥眼科に行った方がいいかもですが、明日のグレラガを見てからにいたします(^^)
期間限定グレンラガンのカミシモ(シモン総受が信条)テキスト垂れ流しブログです。
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