※注 子供というほどじゃないのですが、カミナ14歳、シモン11歳くらいの設定です。
「シモーン!キスって知ってるか?」
「へ?き、す?」
消灯になる前に穴蔵に走り込んできて、言われた、突然。
闖入者は『教えたくて仕方ない!』という顔で、うんうん、とうなずく。
カミナはいつもいろんな事を教えてくれる。毎日毎日穴ばかり掘って、仲良く話す友達も居ないオレは、カミナに言わせると『せけんしらず』なんだそうだ。だからなのか、カミナは何か新しい事を覚えると、すぐにこの穴蔵まで教えに来てくれる。胸をはって得意げに。
「俺ぁお前のアニキなんだから、色々教えてやんなきゃいけねーよな!」
それが口癖だ。
遊びの事やいたずらの事。それから、一番聞くのが好きなのは「地上」の事。
村の天井のずっとずっと上には、「地上」っていうのがあるんだって。壁も天井もなくて、お日様っていう光の塊がいつも照らしててものすごく明るいんだって。夢みたいな話。(実際、村のみんなはそう言ってる)だけど地上の事を話すとき、カミナはとってもいきいきして嬉しそうで、結局その顔を見るのが、オレは一番好きなんだ。
そんなときいつもより赤さが増してきらきら光る目に、こっそり見とれてる、なんてことは内緒だけど。
それにしても、今日教えてくれるのは何の事なんだろう。聞いた事のない言葉。
「それも、地上にあるもののこと?」
かなり上機嫌な様子だから、関係することかなと思って聞いてみる。
「ちがうちがう!あー、やっぱりお前知らないよなあ!」
予想通りなのが嬉しそう。カミナは勢いよく、オレが支度している最中だった寝床に座り込んで、手招きする。こんな時間にオレの部屋に来たんだ、たぶん今日もうちに泊まるつもりなんだろう。もう一枚毛布を出さなきゃ、と思いながら、呼ばれるままに隣に座った。
今日のカミナは本当に機嫌が良い。まあ元気があるのはいつもの事だけど。内緒話するみたい、肩を寄せられて。ふっ、と嗅ぎなれない匂いが鼻先をくすぐった。お酒、かな。
「キスってのは、地上の話じゃねぇ。なんつーかな、オトナの挨拶、だな」
うーん、と余韻を持たせてオレの肩をばしばし叩く。勢いで毛布の上にころがるところだった。地味に痛いよ・・・
「挨拶って・・・挨拶にオトナも子どももあるの?」
叩かれた肩をさすりながら聞き返した。頭二つ分くらい高いカミナの目を見上げるけど、何だかおかしい。焦点があってないっていうか、ふわふわしてるっていうか・・・・・・
「あるね!ぜんっぜんある!」
「・・・声大きいよ、カミナ・・・」
もう夜なんだから。たしなめてみても、歌でも歌いかねないカミナの様子。やっぱり変だ。酔っぱらってるのかな?
オレ達の村では、12才を過ぎればお酒は飲める。カミナはかなり早い内から飲んでたみたいで、年の割に強い方だと思う。オレも一口くらいなら舐めたことあるけど(ブタモグラの乳から作るんだって)、酸っぱいような苦いような味でおいしくないし、すぐにくらくらして眠くなってしまうから、たぶん12になっても飲まない気がする。まだブタモグラのミルクを直接飲む方が良い。子ども、ってカミナには笑われるけど。
そんなお酒に強いカミナは、大人に混じってちゃっかり酒盛りに参加する事もよくある。周りも酔っぱらってるから、勧めれば勧めるだけ飲むカミナが面白いらしく、わざわざその為だけに呼び出されたりしている。
それでも、いつもは滅多に酔わないはずなんだけど・・・めずらしいなあ。
「大人と子どもで違うのが、その、きす、ってことなの?」
「そうそう!わかってきたじゃねえかぁ、シモン!」
・・・いや全然わからないんですけど。
腰に差してたいつもの赤いサングラスをビシィっとかけて喜んでるけど、オレにはさっぱり話が見えない。
「あのさ、カミナ」
「なんだ兄弟!」
「えと・・・ごめん、オレまだ良くわかんない。結局、きすって何なの?何かすること?」
「そのとおぉーりっ!!」
膝を叩いてカミナがのけぞった。そして急に息を潜めてぐい、と顔を近づけてくる。近い近い近い。
「教えてやろうシモン・・・キスってのはなあ・・・キスってのは・・・」
すうう、と大きく息を吸って。思わず引き込まれたオレも、拳をにぎってつぎの言葉を待ちかまえた。
「口と口とをくっっつける事だっ!!」
どおおぉぉんん!!
・・・と、たぶんカミナの中では効果音が鳴った、と思う。(というか実際手を床に叩きつけてた)
オレは・・・オレは、正直ずっこけた。
「そ、それだけ?」
「?おう、それだけだ!」
・・・なんだそれ。あんなに引きを作るから、何かものすごい事をするのかと思ったじゃないか(だからといって想像もつかないけれど)。
あんまり拍子抜けしたので、こちらの反応の鈍さにカミナが気づいてしまった。むう、という顔をしてまたサングラスを上げる。
「シモーン・・・ピンと来ねえ、って顔してやがんな」
「え?!いやそんな事ないって、ないよ・・・」
「いやそんな事ある!なんだ、何が気に入らねえんだよ」
口をへの字に曲げて迫ってきた。うう、やだなあ。カミナ、からみ癖があったのか・・・。なるべく刺激しないようにしたいけど・・・ちゃんと答えないと怒るし・・・
仕方なし、オレはおどおどして手をいじりながら、思いついた事を口にする。
「口と口をくっつけるって、やってる人、見た事ないし・・・」
「そりゃあお前・・・あんま人前でやることじゃねえだろ」
言いながらカミナは少し赤くなった。なんで?挨拶なんでしょう?
「人前ではしない、挨拶・・・?」
やっぱり良く解らない。カミナもなんだかうまく説明できないらしく、眉を寄せてちょっと詰まっている。
口と口、かあ。うーん、あんまり想像つかない。寝床で膝を抱えたまま、オレは何となく指で唇に触れてみる。自分の口は、べつに触ってみても感慨はない(ちょっとふにふにしてる?)。人の口は、確かに触った事ないけど、自分のとそんなに違うものかな。
ぼんやりと指を動かしているオレの横で、カミナはうーうー唸っている。そのうち、頭をがりがり掻いて、しゃあないなあ!と盛大な独り言をはき出した。と、くるりとこちらを向いて、オレの肩をがしんとつかむ。
「何事も経験しなきゃわからねえもんだしな!」
「え?」
「よし、シモン。とりあえず目ぇつぶれ!」
んでもって、少し上向けよ。おまえ小さいから。
酔っぱらいカミナがじっとにらむので、言う事を聞かないわけにもいかない。それに、なんだかかなり真剣に、わからせようとしてくれてる事だし、ちょっと興味も湧いてきたところだった。
しずかにしずかに。言われたとおり、目をぎゅっとつぶる。ええと、あと軽く上を向くんだっけ。
顎を上げると、首の筋に少し引っ張られて口がほんの少しだけ開いてしまった。まあいいか。目をつぶっているから、カミナの顔も動きも見えない。
毛布の上で、これから何が起こるのか。オレはただただ、その瞬間を待っていた。
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