<どんな服でも着る人は居る>~アラブの諺
「・・・シモン、私にこれを見せてどうしろっていうの」
怒気をはらんだ声が、静かに、それはもう地を這うように、口から流れ出た。
執務室は、ムガンの攻撃で焼けてしまった。無事に残った一部屋で、急遽つくられた総司令室。呼び出された先で見せられたものは、ええと、なんというか。
「え?だから、これヨーコに着てもらう新しい戦闘服」
こちらの怒りはさっぱり通じていないらしい。宇宙から戻って少しは男らしく成長したと思っていたら、やっぱり中身は変わってないみたい。のほほんと、机の上の服を持ち上げる。
で?この、なに?戦闘服?布きれが少ないのは、まあ許します。自分がいつもどんな格好してるかは、自分でも良くわかってるからね。しかーし。
「・・・この、胸のところの、でっっかい星はなんなの!」
「いいでしょう!オレ星模様って好きなんだよ!」
がくーん。あああああ。
全然わかっていない。星マーク二つそれぞれ胸につけて歩けって?ていうか、もう星おっぱいですか。明らかに間違ってるでしょう、そこは!
?・・・ていうかこれってもしかして。
「あんたデザイン?」
「そう!」
「ばっかじゃないの?!そういうのは本職に頼みなさいよ!」
「だって今カミナシティは復興中だし、そういうところに予算使うの無駄じゃないか」
なんでこういうところで微妙に正論吐くのかしら。
はああ、とため息をついて椅子にふかーく沈み込む。そんなこちらの様子にも気づかず、総司令さまは喜々として持論を披露なさる。
「昔さあ、アニキが言ってたんだよね。『女の胸には星が似合う!』ってさ。『その星をとるかとらねえかが男の勝負なんだよ!』その時の気合いの入れようったら」
あの馬鹿スケベ、死んでまでシモンに変な影響与えて・・・
それじゃニップレスだから、と言いたくても、何だかひどい疲労感がおそって言う気も失せる。・・・そうね、カミナなら言いそうな台詞。あーあ、あいつだったら見せたって良いんだけどさ。
七年飛び越えて。ちょっとだけ、回想にひたろうと思っていた・・・ら、またシモンが、机の下でごそごそしている。そこから何やら取り出してきた。
「それでね、オレのも見て♪」
!!!?なに、それ・・・・・・
いえ、嬉しそうに羽織ったマントは良いの。マントは・・・(背中にグレン団のマークがついてて、不覚にも一瞬ぐっときたし)。でもね、でもね・・・・
「その黒い皮の首輪と腹巻きはなんなの?!!」
「え?かっこいいから」
「かっこよくなーい!!!」
えー、ちゃんと防御の理由もあるのにー。不満そうな声を上げる、人類の希望どの。
あああ、この男に本当に未来を託して良いのか不安になってきた。これは、あれね。今まで一度も服装の事なんか考えなかった、ちょっと内向的な男子が陥りやすい間違い・・・『何か黒系で光ってるのってかっこよくね?ちょっとヘヴィメタっぽくね?』みたいな・・・それ、明らかに間違いだから。21まで、どういう生活送ってきたのか、何だか想像できるわ・・・ニアがこいつの服装センスを正すわけないでしょうし。
「っロシウには聞いたの?」
「うん、聞いた。ちゃんと見せてから発注かけたよ」
あっさり。最後の頼みの綱だと思ったのに。いや、でも、うそでしょう。ロシウがこんな格好許すとは思えないんだけど・・・
「こないだアダイから帰ってきてから、すっかりあいつも丸くなっちゃってさ。シモンさんの好きなようにしていいです、って」
何だか仏さまみたいなんだよー、にこにこしてて。ちょっと前には、オレが何をするにもかりかりしてたのに。やっぱり拳で語り合ったのが良かったのかな。(語り合ってません。一方的です)
呑気。あんたは呑気すぎるわ。
盛大に頭を抱えて見せても、さっぱり動じない。何か、変な方向に強く成長したんじゃないかしら。そしてその後も次々と展開される恐ろしい色味のアイテムと新デザインの数々。それ全部、本人かっこいいと思ってやってるから始末に負えない。緑にオレンジの星とか目眩がしてくる。だってその戦闘服って、ダヤッカやガバルやマッケンだって着るのよ?
だめ・・・・!あたしじゃこいつを止められない。
一つずつ服を取り出しては、デザインコンセプトを滔々と述べる復活シモン総司令を残して、脱兎の如く仮総司令室を飛び出した。
今、あいつを止められるのは、やっぱり彼しかいない・・・!
「ロシウ!!!」
「っ!ヨーコさん?」
ばん!と部屋のドアを開けたら、さすがに驚いてロシウが椅子から立ち上がった。何かひさしぶりに見たわ、その焦った顔。ちょっと微笑ましくなった。
いやいや今はそれどころじゃなくて。
つかつかとロシウの仕事机に近づいて、またばん!と机をたたいて派手な音を立てる。後ろでキノンがはらはらしてるけど、気にしてる場合じゃない。
「・・・あんた、シモンの新しい戦闘服見たの?」
「え?あ、はい、見ました、けど」
「・・・見たの?!じゃあ何で止めなかったのよ!!明らかに間違ってるでしょ?!あの服は!」
「で、ですが」
あまりの勢いに、若干引いていたロシウは、ちょっと驚きから覚めたらしい。襟元を整えて、姿勢を正した。
「今度の戦いは、螺旋力の強さが雌雄を決することになるでしょう?」
要は気合い、という事になるみたいなんですが。会議室でのみんなの反応を思い出したのだろう、少し苦笑しながら続ける。
「それなら、自ら気に入った服を着て戦った方が、シモンさんのやる気も気合いも高まって良いと思うんですよ」
確かに僕の趣味とは相容れない所はありますけれど。実際僕が選んだ総司令服も、最初はかなり嫌がってましたから。・・・あの時は必要だったとは言え、強要してしまったのは悪かったかな、と今では思ってます。
そこまで来て、ロシウは拳を握りしめ、ぐっと力を込める。
「それに、本当~に珍しく、シティの予算の事まで考えて、自ら動いてくれて・・・」
あ、力入ってる。素直に感動してる。総司令の時は、よっぽどほにゃららしてたのね、シモン・・・
「肌の露出が多いのは、もう昔のカミナさんやヨーコさんで見慣れてます。他のみなさんの戦闘服の色については、補色を使うことで目立たせる意味もあるんじゃないですか?」
私のやシモンのは、露出とはべつの意味で破廉恥なんですけどね・・・。あと宇宙で目立ってもしょうがないんじゃ・・・
確かにシモンの言うとおり、すっかり丸くなってしまったロシウを目の前にして、またまた大きく脱力する羽目になる。彼でも駄目なら誰にすがればいいってのよ。
軽く失望して相手の顔を見て・・・ふと気づいた。にこやかな顔の後ろに見え隠れする大きな文字があることを。
『だって僕は着なくていいですからね。(ちなみに死んでも着ません!)』
・・・やっぱりどっか黒くなってたの、あんた・・・。自分の身にふりかからなければどうでもいいわけ。
「・・・わかった。ごめん、邪魔したわね」
足音も荒く部屋を出ながら決意を固める。
こーうなったら!戦闘服デザインについては、大グレン団全員に意見を聞いてみようじゃないの!せっかく議会とか政治とかやってたんだからね、民主主義にのっとって多数決で決めてもらおうじゃない?
<つづく>
期間限定グレンラガンのカミシモ(シモン総受が信条)テキスト垂れ流しブログです。
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