9.
手の平が熱い。人を殴ったことなど、一度もなかった。殴ろうとしたことは、一度だけあったけれども、結局実行はしなかった。あれは初めてシモンさんやカミナさんに会った時。まだ自分が、狭い狭い世界に生きていた頃。そして、これはあの時のような激情と違う。
殴られた本人は、呆然とこちらを見ている。
8.
「何だぁ?坊主」
3人の中でも仕切っていたらしき、壮年の男がこちらに近づいてくる。体格だけは見事なそいつが体を折り曲げ、酒臭い息がまともにかかるところまで、無精ひげの、てらてら光る顔が寄せられてきて。ぐい、とにらみ返した俺を見て。
盛大に、笑った。
始まりは、ごくささいなことの積み重ねだったと思う。
リーダーという、自分の立場。みんなを引っ張っていく力として。目的へ進む。前へ前へ進む。そんな風に、思っていた。漠然と。
6.
息を切らしてたどり着いたシモンの寝室の前に、佇む人影があった。
出会ったときのように、美しく波打つ髪をして、その人は俯いている。きれいなきれいな横顔。
「ニアさん」
「すっげーカッコ良かった!やっぱあの人すっげーよ!」
「ギミー、うるさい」
新政府の渡り廊下はひどく音が通る。興奮のあまり両手を広げてしゃべりまくる(しかし内容はただ「すげー!」の一言に尽きる)ギミーの声はわんわんと廊下中に響いていた。
5.
大グレン団の誰もが心に傷を負った、雨の7日間。3年前のあの日から、何があろうと明けない夜はないと心に刻み込まれている。
それでも、今日という日の朝焼けは、重かった。
3.
やはりとは、思ったけれど。
一応確認をしに来ては見たが。シモンの部屋に、主は居なかった。あつらえてある寝台も、事務机にも、今日誰かが帰ってきた形跡が見当たらない。夜の会議の後、疲れも取らずいったいどこへ行ったのだろう。
ニアさんの聞いたとおり、見回りに出ているのだろうか?
行為自体は賞賛すべきことだとは思う。だがもしそれが本当に毎夜の事なのだとしたら、誰かが止めてしかるべきだろう。リーダーが体を壊してしまっては元も子もないではないか。
そう考え始めて、ふっと我に返る。ああ、自分も。いつからそういう考え方が染みついたんだろう。
2.
聖典のページをぱたりと閉じた。
司祭が持っていた時間と、自分が持ち歩いていた時間とが積み重なって、この小さな書物はますます古びて埃の匂いがする。あまり何度も開くと、とじ目が千切れてしまいそうだ。
あの日から。あの不吉な予言を聞いた日から、ロシウは毎晩この書の解読を進めている。リーロンから一通り文字を教わってわかったのだが、この聖典の文字は、今伝わっている文字よりもさらに古いものらしい。いったいいつから伝わっている物なのか、それすらわからないので、めくら滅法の手探りに近い。だが幸い、このダイグレンを目指してやってくる者の中にはまれに、古い文字を知る人、あるいは伝承を伝える古老を紹介してくれる人が居る。今日も、少し手がかりになるような文字を知っている老人が居て、そこを訪ねてきたのだったが。
ふうっ、とため息をつく。せっかく役に立ちそうな情報を仕入れたのに。うまく頭が働かない。見慣れた文字すら頭に入ってこない。
昼間、ニアの言ったことがひっかかっていた。
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鉄は熱い内に打て!
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