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Posted by ふじみき - 2007.10.30,Tue




[主よ、永遠の安息を彼らに与え、]
[絶えざる光でお照らしください]
[正しい人は永遠に記憶され]
[悪い知らせにも恐れはしないでしょう]



 今なお荒野のままにあるその地に、赤く赤く、ひるがえる色が見える。その周囲を囲んで、7本の十字架の影。

数日前に一度だけ、ここはたくさんの人に囲まれている。星のために散った人たち。シティを粛々と進んだ長い長い国葬の列。

埋められたのは、超銀河ダイグレンに残っていた彼らの遺品。宇宙で最期を遂げた、その瞬間に身につけていたものは何一つ、地球に持ち帰ることはできなかったから。

宇宙艦に残されたのはごくごくわずかな身の回りの品のみだった。階級章、煙草の箱、上着、サングラス。それだけなら単なる日用品に過ぎないものたちが、一人分ずつ掘られた小さな穴に降ろされた。

だから天領地として当時のまま残された、この陵墓に在る骨は一人分だけ。夕陽よりも赤くはためくマント、それを結びつけられた刀の下。その骨の主を慕って集まった、彼らの------大グレン団の墓が、ここにある。



 

しゅぃん、とほとんど音もなく、火山質の土の上に降り立った。およそこの荒野には似つかわしくない、青いエア・カー。人影は2つ。

白い政府の制定服を着たシモンは、助手席に座っていたニアをそっと抱き上げる。突然の事に少し驚いたように目を見開いたけれど、すぐに嬉しそうに顔をほころばせて、ニアはシモンに身体を預けた。細く柔らかい両の二の腕には、まだ痛々しく白い包帯が巻かれている。まぶしいその白を目の端にして、シモンの目がぐ、と一瞬ゆがむ。

 

「大丈夫よ、シモン」

 

すぐに察したのだろう、優しい声が耳朶をくすぐった。彼女の言うとおり------包帯は巻かれているものの、その下の裂傷はもう治りかけており、残っているのは打撲痕と筋肉にかかった強大な負荷がもたらした鈍痛だけで。おそらくあと数日の内に完治するだろう、とリーロンには見立てられている。

羽のように軽い、とはいかない。それでもおそらく標準よりもずっと軽い身体を腕に乗せ、車を降りる。しばらく、抱き上げた彼女の重みと温かさを楽しんで、ふわりとシモンはニアを大地に降ろした。ほんの少しスカートが翻り、またしなやかに彼女の脚に沿う。薄桃色はニアが最も愛する色だ。壮絶なあの戦いの傷が完治したならば、同じ色の生地がたっぷりと彼女を包むだろう。彼女が一番大好きな色を身にまとって誓いをたてる。その日を、誰もが心待ちにしていた。

エア・カーの後部座席から、シモンがいくつもの包みを取り出す。ニアがどうしても持って行きたいと言ったものたち。

彼女は、国葬に出席しなかった。誰の配慮でもない、ニア自身が決めたことだ。

アンチスパイラルのメッセンジャーとして、全世界に姿を見せ、都を、星を攻撃する指揮をとった自分。

誰もが言ってくれた。あれはニアのせいじゃない。憎むべきはアンチスパイラルだ。生まれる以前から彼女にそんなプログラムを施していた、彼らのせいなのだ、と。

それでも。

大切な人を失った人達の前に、自分が姿を見せるわけにはいかない。どんなに頭でわかっていても、心が納得できないことがある。それは、7年の昔に教わったこと。

 

「遅くなってしまって、ごめんなさい」

 

新しく立てられた墓標たちに、ニアは一礼した。十字に組まれた簡素なつくりのそれは、きっとその方が彼らが好むだろうとシモンが決めたもの。そのひとつひとつに、彼女は花を立てかけていく。

 

・・・大グレン団のみなさんへ。

 

彼らに連なる、健在の家族や、親族や、友人達が。グレン団の旗をかけられた、空の棺に従って歩いた日。一人部屋にいて、彼らの事を想っていた。あの日も空は青かった。

イレギュラーと呼ばれ、宇宙の狭間で分析にかけられている間。自分は全てを見ていた。聞いていた。彼らが最期に残した言葉。シモンに、仲間に。

守る、と。守れよ、と。笑って逝ってしまった人達の、労りと優しさ。痛いほどに。

振り返って、そばに立ってくれていたシモンから、もってきた包みを受け取る。ひとつひとつ丁寧にひらいて、墓標の前にそっと埋めるように置いていく。今も空は青く、照りつける日差しに、影は色濃く落ちている。

 

・・・キタンさん。

アンネちゃんの写真と、黒いグローブ。アンネちゃんは首が据わるようになりました。キングキタンのぬいぐるみがお気に入りなんですよ。

 

・・・ゾーシィさん。

真新しい煙草とサングラス。政府高官になったのに、シティで一番安い煙草をいつも吸ってましたね。同じ銘柄で良かったかしら。

 

・・・キッドさん。

ネクタイです。意外ときちんとした格好が好きなんですよね?いつも制服を着崩さずに通っていたの、知ってます。

 

・・・アイラックさん。

薄色のマフラー。寒がりでいつも上着が手放せないって以前聞かせてもらいました。こんな素敵な色もきっと似合ってしまうでしょう。

 

・・・ジョーガンさん。

ネックレス。ゾーシィさんがしていたようなのが欲しいって言ってましたね。お店で一番大きいサイズを探してもらいました。

 

・・・バリンボーさん。

サスペンダーです。たまに礼装するときに、スーツのサイズで困ってたの覚えてます。これならきれいに着こなせるはず。

 

・・・マッケンさん。

シュリちゃんが、腹巻きを作ってくれました。お父ちゃんはお腹を冷やすなっていつも言っていたって。私のスカーフと合わせて。首も温めてくださいね。

 

ひとつひとつ、心の中で語りかけながら。大好きな人達に、贈り物を。

日を背に受けて、その様子をシモンがじっと見守っている。大切な儀式のように、全てを終えるまでゆっくりと時間をかけているニア。

最後の贈り物を埋め終わると、ニアは陵墓の真ん中、カミナの墓標の真正面に立って深々と頭を下げた。

 

「アニキさん、みなさんをよろしくお願いします」

 

ふわり、と荒野の風にスカートが踊る。同じように赤いマントが翻り、まるでニアの言葉に返事を返すように見えた。

 

・・・わたし、贈り物がしたいんです。

そう、ニアは言った。ここに来る前。

思い出の品や、大事な物はもう埋めてあるし、みなさんがそれぞれ持っているでしょうから。亡くなった人に贈り物、なんておかしいかもしれないけれど。

 

顔を上げたニアが振り返る。光流れる雲を背景に立つ、大きく優しい影が笑いかける。

7年前、出会って。連れて行ってもらった、長い旅。この荒野は、ダイグレンに乗って歩んだ風景と同じ。広くて、いつも風が吹いていて、遮るものもほとんど無い。

青い上着。真紅の炎を巻き付けた左腕。固く温かかった手の平。それからずっと、あなたの側にいた。

 

「ニア」

 

呼びかける声は思い出よりも少し低く、歳月が一気にニアの身体を駆け抜ける。

 

「・・・シモン!」

 

弾かれたようにかけだして、ニアはシモンの胸に飛びこんだ。顔を埋めれば、優しい腕がふわりと包んでくれるから。ここに来るまでずっとずっと、胸の奥に留めておいた想いがあふれ出しそうになる。

ねえ、シモン。あなたが私を大グレン団に連れて行ってくれたあの日から、私の世界が変わりました。

私にとって家族はお父様だけだった。いいえ、家族という言葉も知らなかった。お父様と私とが居て、獣人の側近が居て、それが世界の全てでした。そんな小さなつながりさえも無くしたあの日、あなたが私を見つけてくれた。あなたとあなたの大事な仲間の所に連れて行ってくれた。

 

「シモン・・・みんなみんな、大切な人だったの」

 

お父様が、あなた方のかけがえのない人の命を奪って。私は、みなさんに憎まれて当然だったのに。

 

『ニアちゃん!』

 

風に乗って聞こえてくる声。いくつもの声。

通りがかればいつも声をかけてくれて。名前を呼んで、手を差し伸べてくれた人達。嬉しいことがあれば一緒に笑って。失敗をすれば、笑ったり呆れたりしながら許してくれた。

 

『ニアちゃーん!』

 

思い出の中にこだまする。私は一緒に戦うことも、満足にみなさんを手助けすることもできなかったのに。一緒に食事をして、同じ所に寝起きをして。戦いの日々も、その後の平和な日々も、めまぐるしく変化する場所にあっても。みんな変わらず温かくて、変わらず優しくて。

 

「・・・家族、と、同じだったの」

 

こらえきれない涙が頬を伝った。

私が持つはずも、持てるはずもなかったもの。地上を統べ、幾百幾千の人々とその大事な人達を葬り去った王。その娘である私が、持って良いはずがなかったもの。

それでも、その温かさを知ってしまったから。

こここそ帰る所、と全身が求める場所。見返りなんかいらない。何のてらいもなく助け合い思いやり合う人々の中に居ること。居られること。

大グレン団。何年も一緒に居てくれた。私の、たったひとつの、家族。

 

その中の誰ひとり、失いたくはなかったのに。

 

「ニア・・・」

 

抱きしめる腕が強くなって、俺も同じだよ、とシモンが言っているのを感じる。それがいっそう切なくて、ニアは縋り付くように彼の首に腕を回した。

 

シモン、シモン、ごめんなさい。家族を、仲間を、失ったのはあなたこそ。

そうして、私もまた、あなたを置いていくの。

自分が消えるのは、恐くない。恐いのは、悲しいのは、あなたがまた喪失を味わうこと。

 

閉じた睫毛の奥から熱いものがとめどなく湧き出して、シモンの広い胸を濡らしていく。ふるふると震える夢幻のような色の髪を、シモンは繰り返し梳いてやった。

 

「泣くな、ニア」

 

抱きしめていた腕を離して、柔らかな頬をそっと両手で包む。滑らかな丸みに壊れ物のような涙がこぼれていく、その後を追って、口づける。何度も何度も。

 

「みんな、好きでしたことなんだ」

 

彼らが行った道。それは、それぞれ自身で決めたこと。守りたいものを守り、そのために代償を投げ出した。だから、最後まで、笑って。

 

「オレたちも同じ」

 

あの時、宇宙の狭間、ラガンの中で。二人で決めたことじゃないか。オレはオレたちは、為すべき事を為したんだ。

 

「オレは、ここに二人で居る『今』を後悔なんかしないよ」

 

たとえ結末が決まっていたとしても。今この時に、二人で在れる事を、喜びこそすれ嘆きはしない。

 

「この『今』を、オレは未来永劫忘れない」

 

だから。

置いていくなんて、思うな。この時を、お前を、命果てるときまで忘れないから。

 

少し乾いた唇が触れるたび、想いが肌に刻み込まれていくようで胸が熱くなる。それは温かい波になって、いつしかニアの瞳をほころばせていた。

 

 

 

澄み渡った空の下。

エア・カーは再び浮き上がり、加速をつけて一路カミナシティを目指す。

強さを一気に増した風に髪をなぶらせながら、振り返るニアの目に映るのは、7本の墓標と、一段高く赤々と広がるマント。まるで7本を包み込むように翻っていて。

人影ひとつないその地に向けて、彼女は大きく手を振った。

 

愛しています、私の家族。愛しています。みなさんのことを。

まだわがままでここに存在し続ける私は、みなさんの所に行けるでしょうか。やがては同じ場所で、一緒にシモンを見守っていけますか・・・?

 

心からの問いかけに、答える声はなかったけれど。

遠ざかる赤い色が一滴の血になるまで、いつまでもいつまでも。

ニアはその手を振り続けた。たおやかな指を彩る緑の石が、きらきらと残像を残していた。

 

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Comments
無題
うわあん!
泣きましたよ!
また!
性懲りもなく!
昨日おとついもずっと4巻見ていて、泣いてました。音聞くだけで泣くって言うのに、今回のシモ二アで再度泣く!いいかげんにしろ!自分!
ニアの思いが切ない。せつなすぎるう。
愛する人を置いていく辛さ!

ニアが消えるまでの間の話が読めて本当うれしかったです。GJ!
毎回チェックいれてます!
これからも頑張ってくださいませませ!!大好き(ウフフ!)
Posted by kappi- - 2007.10.30,Tue 08:44:11 / Edit
無題
泣けます!!!

結婚式までの一週間二人は幸せでしたよね!そんなやりとりがあったと思います!!

グレン団一人一人に話しかけるニアと二人の想いに泣きました!!

ありがとうございます!
Posted by イワ - 2007.10.31,Wed 20:04:47 / Edit
ずはぁ・・・
あぁ・・・号泣です
ニアもシモンも消えることがわかっていて残りの日々を過ごしていたんですもんね・・・
ニアはいい子だなぁあああ
言葉になりません!!!ありがとうございました!
Posted by 烏 - 2007.11.02,Fri 23:27:11 / Edit
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